僕達ケアマネは様々な困難事例を経験しますが、その代表格としてこの「ゴミ屋敷」があると思います。
そして、最近TVの番組などでゴミ屋敷を芸能人が片付けたり、ニュースなどで近所とトラブルになっているゴミ屋敷の住人に対して、行政が「行政執行」という権限を使って強制的にゴミを排除したりするのを見る機会が増えました。
しかし、ゴミ屋敷はゴミを片付けるだけでは何の意味もありません。根本的なアプローチの仕方を多くの人が間違えているのです。そこで今日は僕の尊敬する岩間伸之先生の著書「支援困難事例と向き合う」から、ゴミ屋敷の支援事例を紹介させていただきます。
ゴミ屋敷事例
Gさん(83歳・男性)は1人暮らし。Gさんの家は部屋中にゴミが溢れており、Gさん自身も家の中に入れず玄関の入口スペースで生活している状況。ゴミは部屋からも溢れ外に露出。季節や風向きによっては異臭が周囲に漂う。近隣住民は何度も本人に改善を求めたが、「かまってくれるな」ととりつく島もない感じで、近隣から長年孤立していた。
そんな折、買い物に出かけていたGさんは転倒し骨折。幸い自宅安静できる状態であったが、自宅での様子を心配した医療機関から地域包括支援センターへ連絡。介護保険の利用を勧めるが「何も困っていない」と利用を拒否。医師が痛みがある間だけでも利用することを説得し、訪問介護の利用をなんとか同意される。
訪問介護のヘルパーが来ることは「ようきたな」と受け入れてくれるものの、物を捨てることには同意されず、掃除も玄関先を少し触る程度。
近隣住民からは「もっとなんとかならないか。どこか施設に入れてほしい」と強く要求される。
近隣住民からの話では、Gさんの妻が7年前に亡くなってから始まった。元々子どもに恵まれなかったが、仲の良い夫婦だった。Gさんは若い頃自営で小さな電気屋をしており、近隣住民もよく頼っていたそう。
Gさん「みんななんでもわしに頼ってきた。直せんものはなかった。だから商売にならない便利屋の仕事のほうが多かった」と酒を飲みながら上機嫌に昔の話をされる。
事例の捉え方、ゴミが意味するものを考える
①物を捨てることは過去を整理すること
Gさんは妻を亡くしてからゴミが増え始めた。これは何を意味するのか?
一言で言えば「変わりゆく自分の現実を直視することができない状態が続いている」ということです。
不要な物があっても過去の「引っ掛かり」があって、前に進めないのです。
「引っ掛かり」の正体はこれからの自分の存在価値の揺らぎ、自分が生きる事の意味、妻がいない状況での生活スタイルをどうするかといったことです。しかしその変化する現実を受け入れることができず、Gさんは昔の良かった頃のまま時間が止まってしまっているのです。
その結果、Gさんはゴミを捨てることに同意しません。正確にはどれを捨てて、どれを残せば良いのか自分で判断がつかなくなっているのです。
ゴミを捨てる事は過去を整理することを意味します。その為、Gさんが自分で過去の整理ができない限り不要なゴミを捨てる事はできないのです。
②社会関係の遮断と思考の停止
しかし、引っ掛かりにアプローチする前にある大きな課題。そう「大量のゴミ」です。このゴミが本来向き合うべき課題を埋没させ、解決へのアプローチを困難にさせます。
異様な程に溢れたゴミと猛烈な異臭は、Gさんと近隣住民との関係を物理的にも心理的にも遮断します。
Gさん自身も自分ではどうすることもできないゴミの山を目の当たりにし、また向き合いたくない現実と相まって、閉ざされたゴミの要塞の中で、思考は狭い範囲で堂々巡りを繰り返しやがて思考停止に近い状態に至ります。
こうなるとGさんにとって外からの声は全てうっとうしいと思えてきます。Gさんの引っ掛かりと、現実に起きている問題との乖離が大きくなるほど、周囲の人達と軋轢は増幅し、さらに孤立していくという悪循環に陥ってしまします。
どのように支援するのが良いのか?
①引っかかりに対応する
まずはこれです。Gさんにとって最も怖いのは「自分は誰にも必要とされず、無価値な存在になった」と感じてしまうことです。ここで支援者がGさんに対してアプローチします。
Gさんがこれまで社会的に貢献してきた事を援助者などの周囲が認め、そのうえで今後は別の生きる意味や価値を模索していくという覚悟を持てるように支えていくことが必要です。その為には支援者は近隣住民などの周囲の人達との調整等が求められます。
この引っ掛かりへの処理があってこそ、この事例は一歩前進できるのです。
②本人にとって身近な「気がかり」から始める
周囲が勝手に「これも不要だから捨てましょう」とゴミの片づけに早急にアプローチするのではなく、本人の身近な問題から始めていきます。
事実Gさんは「何も困っていない」と言いながら、訪問介護の利用や支援者が自宅に訪れる事には同意しています。転倒によって、日々の生活に不安が出ていることの現れです。こうした身近なニーズを拾い上げながら、その延長線上にゴミ問題を位置づけることが大切になります。
例えば、床下からの起居動作が難しくなっているのなら、ベッドを置くスペースを確保できるように物を整理してみましょうといった感じです。
③その気になるタイミングを積極的に待つ
大量のゴミを早く片付けてくれと迫る近隣住民。しかしGさんとの関係を壊すわけにもいかない支援者。
ここで大事なポイントは「Gさんがゴミを片付ける気になるタイミングを積極的に待つ」ということです。
Gさん自身がゴミを自ら片付けたい、何とかしたいと思えるようにならないといけません。しかしただ何もせずひたすら待つのではなく、これまで紹介してきたようなアプローチを繰り返していくのです。
そして一方で周囲の近隣住民の心情にも理解を示しながら、自分達の支援の取り組みを見せていきます。そうしながら地域住民と支援者が一体となってこの問題に取り組んでいけるようにすることが大事です。Gさんがゴミを片付けても周囲との関係が悪化したままでは、ふたたびゴミを集めてしまいます。
いきなり一気に解決に向かうわけではありませんが、お互いに歩み寄れるようにすることを支援することが支援者には求められます。
まとめ
ゴミ屋敷のゴミの正体=変わりゆく現実を受け入れられない本人の引っ掛かり
ゴミ屋敷は本人の引っ掛かりに大してアプローチし、自らゴミを片付けられるように働きかけていくことが重要
全てのゴミ屋敷事例でこのメカニズムが当てはまるわけではありませんが、非常に参考になる考え方です。
どのゴミ屋敷事例に共通するのは「ゴミを片づける事が重要なのではなく、そうなってしまった原因にアプローチする必要がある」ということです。
この視点がないと、強引にゴミを片付けてもすぐに元に戻っていまい、余計に周囲との関係性が悪化してしまいます。ゴミ屋敷事例の対応に苦慮している人の参考になれば幸いです。