数ある困難事例のなかでも、事例を困難化させている原因に多いのが今回紹介する「共依存」です。
今回も岩間伸之先生の著書「支援困難事例と向き合う」から、共依存の支援事例を紹介させていただきます。
共依存事例
Hさん(75歳・女性)は息子と2人暮らし。頻繁に医療機関や役所の窓口に来て、自分の息子の相談話をされる。
「うちのダメせがれが」から話は始まり、昔息子が起こした事件やエピソードを語り、いかに息子にこれまで自分が苦労させられてきたかを話し、話し終わると「うちのは相談じゃなくてグチだから聞いてくれればいい。時間取らせてすいません」と帰っていかれる。
Hさんの息子は軽度の知的障害があり、てんかんや統合失調症の為幼少期から精神科の病院通いが続いていた。Hさんは医師から「この病気は遺伝もあります」と説明を受けたショックが忘れられず、その後どのような説明を受けても「この子をこんなにしたのは私の責任」という認識は変わらない。
亡くなったHさんの夫は飲酒してはHさんへの暴力を繰り返しており、その暴力から息子を必死に守ってきた。昔から親子を知っている地域関係者は「夫が生きていた頃は酒を飲んでは暴れ、しょっちゅうパトカーや救急車が来ていた。息子は父親に似てきたね」と話す。
息子は現在、アイドルのDVDを大量に買って浪費し、年金支給日には飲まず食わずの日が続いたり、息子が暴れて壁に穴を開けたりするなど暴力に近い状況も多くある。
Hさんは毎回涙ながらに「息子と離れて暮らしたい」と語るが、施設見学やデイサービスの利用に話が進むと「お母さんがいないと僕はとっくに死んでいた。と私に言うんです。不憫で・・・白紙に戻してほしい」ということが繰り返されている。
どのように事例を捉えるか
①共依存の特性
共依存とは相互に依存することで、双方の存在が成り立つ関係性の事を言います。
お互いに辛く、苦しい関係であってもそれがなければ自分達の存在を維持できない、密着した関係性です。アルコール依存症やDV事例などに多く見られます。
②強いアンビバレントな思い
アンビバレントとは「好き/嫌い」等、相反する感情を同時に持つことです。誰でも多少はこのような気持ちを持ちますが、共依存関係においてはそれが双方に著名に出現します。
Hさんは「息子と離れて暮らしたい」という気持ちと「息子を不憫に思う気持ち」どちらかが嘘なのではなく、どちらも本当なのです。仮に息子が施設に行けば「苦労の無くなったHさん」となり、自分自身の存在価値が揺らぐことになります。
息子にとっても窮屈な親子関係にストレスを感じながらも、自分の生存を保障してくれる唯一の存在が母親である以上離れるわけにもいかないのです。
③閉じられた関係
共依存の特徴は関係に広がりがなく、当事者間だけの関係に閉じられる点にあります。
共依存の密着関係は不健全でありながらも、加速度的に増し、その閉鎖性から他者との関係を排除し、自己完結的な関係に収斂されていきます。
Hさんが頻繁に窓口に来るのは、自分の苦労を他者に理解してほしいという気持ちと「息子を守れるのは私しかいない」という存在価値を再確認しています。
そして、周囲の援助を受け入れようとしないHさんからは「この関係性を変えるつもりはありません」というメッセージでもあります。
④息子との関係に拠り所を求める事に至った理由
考えたいことに「なぜこういう経緯になったのか?」ということです。
・亡き夫の飲酒と暴力
・夫の暴力から息子を守ってきたこと
・知的障害、てんかんや統合失調症に息子をしてしまったのは自分の責任という思い
こういった要因が重なり、その結果心身ともに安心できる場所が無くなり、自分の生きる居場所と意味を見出すためには、息子との関係に拠り所を求めるしか選択肢が無くなったと考えられます。
事例にどのように働きかければよいか
①息子の閉じられた関係を開く
まず強い共依存関係を変えようとするより、息子の社会関係を開くほうがアプローチしやすいです。息子はこれまでHさんを含めた周囲の関係に巻き込まれた形になっており、Hさんの存在を支える共依存関係のために、息子自身の社会関係が閉ざされてしまっています。
こういった事から息子がHさんとの共依存関係を維持しなければいけない理由は、Hさんと比較してはるかに低い為、アプローチがしやすいのです。
地域の専門職の力を借りながら、 息子の担当の援助者を決定し、その援助者と連携しながら少しずつ息子の社会的な居場所を作ることへ展開します。それができることで少しずつ共依存関係が揺らぎ、その関係に介入できるチャンスが広がっていきます。
②Hさんの存在理由を、Hさん自身の中に見出す
共依存から脱却するためには、Hさん自身が自分の存在理由を息子に見出すのではなく、自分の中に見いだせるよう働きかけることが援助者に求められます。
しかし現在の状態でそれをすぐ行うのは困難です。アプローチとしてはHさんとの対話を重ねながら「息子」のために生きるのではなく、どのように生きたいかを「私」を主語にしてHさん自身が言語化することが大切になります。
その為にも息子の世話に手がかかる状態ではダメです。だからこそ、先に息子の社会関係を開いておく必要があるのです。
③共依存関係を超えた、新たな親子関係を形成する
援助者のアプローチを行ったからと行ってすぐに変化が起きるわけではありません。アプローチを継続しながら、変化を待つことが重要です。
しかし、正しい方向性で支援ができていればHさんと息子。それぞれの社会関係から影響を受け、結果として親子関係にも影響が及び、強固な共依存による関係にも徐々に変化が生じてきます。
共依存の関係は親子関係を希薄にすることではなく、お互いが自立しながらも頼りあえる「プラスの依存」に転換することと言えます。
まとめ
共依存の特徴は、
共依存は多くの支援困難事例に見られる、本人と家族の関係性です。いつも自分の事ではなく、相手の事ばかり気にしている様子が見られたら要注意です。
そのような事例に困っている人は参考にしてもらえるとよいと思います。
参考書籍