この時期になってくると、多くの事業所の4月に入ってきた新人職員も少しずつ仕事に慣れてくる頃だと思います。しかし、この慣れた頃に新人職員に多発するのが「利用者へタメ口で話す」行為です。例えばですが
・「○○ちゃん」等、利用者の事を不適切な呼び方をする
・食事介助のとき等に「はい、あ~んして」等幼児に対するような態度
・「なんでそんなことするの」「ちょっと待って」等、高圧的で上から目線。自分本意の態度
これ以外にもたくさんありますが、上記のような態度が新人職員に見られたら、教育担当をしている職員を中心に注意をしなければいけません。何故ならこのような態度で仕事をすることは、仮にどれだけ介護のスキルが素晴らしかったとしても、最終的に仕事の価値を0にする行為だからです。
さらにこのような態度が苦情を発生させ、事業所への信頼も低下し、最終的には経営面でも収益の低下と大きな事に繋がってしまうリスクがあります。
少し違う目線で考えると分かる事ですが、僕達介護事業者は介護サービスを提供する「サービス業」に分類されます。つまり飲食店やホテルスタッフ等と同じです。
皆さんが飲食店に行った時、オーダーをとりにきたスタッフが横柄な態度で「早く決めてよね。こっちも忙しいだから」等と偉そうな感じで言ってきたらどうでしょう。そのお店がどれだけおいしい料理を提供してくれるとしても、多くの人は二度と行かないし、場合によっては食べずに帰ってしまいませんか?
このように接遇の大切さを話す時、こう反論する人がいます。
「自分達は援助職であって、サービス業ではない。利用者の言う通りにすることが仕事ではない」
これは教科書に書かれている「利用者と援助職は対等の関係であり、伴走者としての役割もある」といった内容の文言を自分の都合の良いように解釈した結果起こっています。つまり彼等の解釈はこうです。
「自分達は利用者と対等の関係。自立支援が仕事なのだから、きつい事を言っても自立できるようするのが仕事。だから友達のような言葉や態度を使う事は許される」
このような考えや解釈が生じてしまう要因の一つに「介護指導」等という言葉が存在するのも良くないと個人的には感じます。
「指導=それができるほうが立場が上」この言葉にはそういう強い意味が含まれてしまいます。なので「介護相談」くらいのほうが良いように思います。
介護とは利用者の自立を支援することが仕事ではありますが、それはあくまでも一般的なサービス業としての礼儀や態度を保った状態で行われることが前提です。そこを履き違えて行われる自立支援にはプロとしての仕事の価値はありません。それはただの無礼な行為であり、お金をもらうに値しないことを理解する必要があります。
ではなぜ新人職員がこのような利用者へタメ口を聞くなど、低レベルな接遇態度をとってしまうのか。それは他ならぬ「先輩、上司などの自分より上位の職員がそのような態度をとっているから」です。
幾ら新人職員に「そのような態度をとってはいけない」と指導しても、当の本人がちゃんとできていなければ指導の効果などありません。そもそもそのような人は自分が利用者への態度が不適切な事が分かっているので、接遇に対して注意することはないでしょう。
そのような職場はタメ口言葉が蔓延し、誰もそれを改めようとしないのでさらに接遇レベルが下がるという負のスパイラルモードに陥ります。こうなってしまった職場では利用者に対して敬意の念など欠片も持ち合わせない職員ばかりになります。そうなると最期に行き着くのは「虐待」であり、最近ニュースになるような事件を起こしてしまうことになるのです。
このように利用者へのタメ口が、最終的には事業所の倒産すら招きかねなりリスクがあり、それに比べてメリットは0です。正に「タメ口は百害あって一利なし」です。
利用者や家族からの苦情が多い事業所は「あの利用者や家族はクレーマーだ」等と考えて相手のせいにしているところが多いです。しかしそのような苦情が多発している事業所は、基本的な接遇レベルが低く、それによって利用者や家族との信頼関係が築けていない結果苦情に繋がっているケースが多いです。
ここで勘違いしているパターンに「家族にはちゃんと敬語で話している」と主張する人達です。
なぜ家族にだけちゃんとした言葉遣いと態度で、利用者にはいい加減で良いと考えるのか。個人的には理解不能な考えと感覚ですが、不思議とこの誤った感覚で仕事をしている人や事業所は多いです。
しかしこの考えは全く無意味で、家族は自分達には丁寧だが、利用者へ不適切な言葉遣いや態度をとっている所をちゃんと見ています。そのような事業所に対して果たして自分の大切な家族を安心して預けられるでしょうか?
「今は自分の前だから丁寧だが、いなくなったらあのような横暴な態度で私の親にも接しているのだろうか?」
こんな風に思われて当然ですよね?これで信頼関係など築けるはずがありません。介護のスキルを磨く前に、社会人として、そしてサービス業に携わる者としての基本的な接遇をきちんと身につけるべきです。
これは何も新人職員に限らず、ベテランだろうがなんだろうができていない職員には徹底させる必要があります。その為には経営者等、組織のトップが率先して接遇を高める事を実践し、「タメ口等の低レベルな接遇を許さない」という毅然とした姿勢を示す必要があります。
「そんな厳しくしたら職員が辞めてしまう」という理由でこれができない事業所もあると聞きます。しかし、先述したように不適切な接遇態度を放置すれば、最終的に行き着くのは不祥事からの事業閉鎖です。接遇ができていない職員には厳しく注意し、改まらないなら現場に出さず研修を受けてもらう。研修期間は給料を減額するなど厳しい措置を取る必要があります。そうなると、不適切な接遇しかできない人達は辞めていくでしょう。
しかしそれを恐れる必要はないと思います。一時的に人手不足になったとしても、きちんとした仕事をしている事業所には自然とお客さんも、働く職員も集まってきます。ちゃんとした人員体制が整うまでは一時的に事業規模を縮小して運営するか、セクションの部分的な閉鎖なども必要になるでしょう。
この一時的な収益の縮小を嫌って、事業閉鎖のリスクを常に抱えるのか。それとも我慢の期間と割り切り改善に舵を切るのか。事業経営の重要な勝負所になるでしょう。
たかが接遇ではなく、接遇一つで利用者・家族からの信頼を勝ち取り事業が成功するか、それとも閉鎖するか。それくらい影響が大きいことなのだと理解して僕達一人ひとりが仕事をしていく必要があると思います。