先月の25日、ずっと注目されていた裁判の判決結果が出ました。
特養の准看護師が、入所者を誤嚥させたとして施設ではなく、准看護師個人の責任追求されていた事件です。
長野県安曇野市の特別養護老人ホーム「あずみの里」で、2013年12月に、入居者の女性=当時85歳=が、おやつのドーナツを食べた後に死亡した事故で、注意義務を怠ったとして業務上過失致死罪に問われた松本市の准看護師山口けさえ被告(58)の判決公判が、昨日25日、地裁松本支部であり、野沢晃一裁判長は、求刑通り罰金20万円の有罪判決を言い渡しました。
弁護側は、判決を不服として即日控訴しました。介護施設での食事中の事故について、職員の刑事責任が問われた裁判は異例で、全国の福祉、医療関係者の注目を集めてきた、ということです。
県内の介護、医療関係者でつくる支援団体は、無罪判決を求める署名約44万5千筆を同支部に提出していました。このように刑事訴追されると介護現場を担う職員は委縮し、ただでさえ不足している職員への応募が減ることが心配されています。
争点になっていたのは、女性が食べ物をのどに詰まらせないよう注視したり、おやつをゼリー状の形態で提供したりする義務が被告にあったか、またドーナツによって窒息したかなどでした。野沢裁判長は、異変に気づく程度の注視を求めるのは困難だった、として注視義務違反については、検察側の主張を退けました。
一方、おやつの形態については、事前に固形からゼリー状に変更されていたことについて被告がチェックする業務態勢になっていなかったという弁護側の主張に対して、引き継がれた申し送りなどの記録に遡って確認したり、介護士に聞いたりして、変更の有無を確認すべきであったと過失を認定しました。
引用:BLOGOS 記事:小宮山洋子氏
この裁判の結果には注目ポイントがあります。
・裁判所は、注視義務違反については「正常にできる状況になかった」と退けた事
・食事形態が変更されていた事を、確認せずにおやつを提供して事故を発生させたことに対しての責任を追求している事。
・その過失を「施設」ではなく准看護師「個人」に追求している事
ちなみに、この事件については既に遺族側と施設で示談しているようです。
またこの裁判の争点が
「そもそも入居者の女性の死亡原因は、誤嚥による窒息ではない」
という事です。
女性の突然の意識喪失と心肺停止が、ドーナツの誤嚥や窒息によるものではなく、食事中の突然の脳疾患・心疾患と見るのが医学的に合理的であるとの鑑定書も作成し、証拠申請しています。
引用:全日本民医連 MIN-IRENトピックより
この証拠申請が認められれば、検察側が完全な誤った起訴を起こしたことになり、「逆転裁判」になると思います。検察が施設や准看護師個人に名誉毀損で訴えられる可能性すらあるのではないかと思っています。
弁護側は今回の判決ですぐ控訴していますので、次回の判決は良心的な結果が出ることを期待したいです。
何にしても、このような判決が認められてしまっては介護業務が恐ろしくてできない状況になってしまいます。
「事故を起こしたら、施設ではなく個人が責任を追求される。しかも裁判沙汰になれば、実名まで載せられる」
こんな法体制で、尚且つ人手不足で過酷な労働環境、さらに低賃金。一体誰が働きたいと思うのでしょうか?もう人が集まらなくなってしまうのが目に見えています。
それでも働き続ける職員の意識は「絶対に事故を起こさない」
それだけしか目が行かなくなります。そうなればどうなるか?
誤嚥のリスクがちょっとでもあると判断されたら、全員ゼリー・ミキサームース食。転倒の危険がある人には全く身動きができなくなる、過剰な抑制がされてしまう。そんな状況になったら、それはもう介護や看護ではなく「死なないように生かしているだけの措置」でしかないでしょう。
国はそんな状況に、介護が必要になった人達をしたいのか?この裁判は一施設、一個人だけの問題でなく、この国のこれからの介護の状況を大きく変えかねない、そんな裁判になっているように思います。