皆様、朗報です。
厚生労働省が介護職人材確保の為に、再就職準備金を全国一律40万円にすることを決めました。
・・・なんやねん、それ。
そう思ったあなた!その気持ち、僕は痛いほど分かります。その理由ですが
・そもそもそんな制度あった事自体知らない
・知っていても、そんな事くらいで介護職が増える効果があるの?
多くの人がこのような状況の中、国は本気でこれが効果があると考えているお粗末な状態なのです。
今回は、そんな介護職の再就職準備金の制度内容と、全国一律40万円支給がなぜ愚かなのかについて解説します。
介護職の再就職準備金貸付事業って何?
介護職としての知識や経験があるが、何かしらの理由で離職している人が、再び介護の仕事に就くことをサポートするために必要なお金を貸し付ける制度です。
あくまで貸し付けなのですが、ここがこの制度のミソです。
貸し付けを受けてから2年間、介護職員として仕事をすることで返還が全額免除されます。
つまり表向きは貸し付けと謳いながら、仕事を2年続ける事ができればお金がもらえる制度でもあるという特徴があるのです。
この制度、これまでは人手不足がより深刻な首都圏、関西圏、東日本大震災の被災地など14都府県で最大40万円、それ以外の33道県で最大20万円まで。つまり全国レベルでみると多くの地域では、貸し付けが受けられるのは最大20万円だったのです。
それが今回のルール改正で、地域ごとに差はつけず全国一律40万円まで貸し付けを受けられるようになりました。
①貸付対象費用について
この制度は「なんかに使うから、とりあえず40万円貸して」ということはできず、一応費用項目を決めて申請する必要があります
具体的にはこのような費用に対して貸し付けが行われます。
○子どもの預け先を探す際の活動費
○研修参加費、参考図書の購入
○敷金・礼金や転居に伴う費用
○通勤用自転車・バイク等購入費
○介護ウェアなどの業務用被服費 等引用:厚生労働省HP 離職した介護職員の皆さまへ ~再就職準備金のご案内~
見てわかる通り貸し付けを受けられる費用項目はかなり広範囲認められているので、とりあえず必要そうな項目で申請しておくのが良さそうです。
②制度の利用条件
当然ですが、誰でもこの制度を利用できるわけではなく一定の条件を満たす必要があります。
貸付対象者は、次の(1)~(4)の基準を全て満たす方となります。
1.介護職員の業務に1年以上の実務経験をお持ちの方(介護事業所等での勤務の方)
2.次のいずれかに該当する方
- 介護福祉士の資格を持っている方
- 実務者研修施設において実務者研修を修了した方
- 介護職員初任者研修を修了した者(すでに廃止されている介護職員基礎研修、1級課程、2級課程のいずれかを修了している者でも可)
3.介護保険サービス事業所等において介護職員等として再就職した者
4.介護職員等として再就職する日までの間に、あらかじめ都道府県福祉人材センターに氏名及び住所等の届出を行い、かつ、実施主体が定める再就職準備金利用計画書を提出した者
引用:厚生労働省HP 離職した介護職員の皆さまへ ~再就職準備金のご案内~
簡単にまとめると
・ヘルパー2級以上の介護職としての資格をもっている
・過去に1年以上介護職として働いた経験がある
・貸し付けを受けたら介護職員として就職する事
・各都道府県の福祉人材センターに計画書等の書類を提出する
ちなみにこの制度の実施主体は書類を提出する福祉人材センターがある各都道府県の社協になります。
介護職として働くのであれば、介護福祉士までは持っていなくてもヘルパー2級くらいは持ってやりだす人が多く、過去の実務経験も1年以上あれば良いと貸し付けを受ける為のハードルは低いと言えそうです。
③返済の全額免除条件について
この制度の最大のキーポイントは
貸し付けを受けてから、2年間介護職として働けば返済が全額免除される
これですよね。免除されれば、40万円の給付を受けたのと同じになります。
しかしここでこんな疑問が湧きませんか?
最低でも2年は頑張ろうと思って就職したのに、そこが運悪くブラックな介護事業所だったら?それでも返済の免除を逃れるためには続けなければいけないのか?
この点についてですが
①返済条件の2年間働くというのは、1つの事業所で満たす必要性はなく、複数の事業所で働いた合計期間でもOK
②病気等の理由で途中で休職せざるを得なくなった場合も、復職して働いた期間の合計でもOK
※ただしどちらにしても、継続的に働く必要があります
つまり
・就職した介護事業所がブラック企業だった場合、無理に我慢して続ける必要はなく、職場を替えてOK
・メンタルを病んだり、怪我や病気になった場合も無理する必要なく休職可能
・最終的に2年間介護職として働く事ができれば返済義務は免除される
こういうことです。ただし詳細な条件に関しては各都道府県で異なる部分がありますので、自分が住んでいる都道府県の社協に問い合わせて確認をしてください。
介護職の再就職準備金貸付事業が愚策な理由
①やる気のない人材が職場環境を悪化させる
この制度の対象となるのは、介護職としての経験が1年以上はあるが現在は介護職として働いていない。ハッキリ言えば無職であるということです。
育児等で致し方なく仕事をしていない場合は良いのですが、大した理由もなく無職である人が40万円のお金欲しさに「まあお金もらえるんだったら、全く介護の仕事に興味ないけど2年位はやってやってもいいか」
こんな感じで仕事に来られる事です。ちなみにこの制度、就職する場合の雇用形態や1日、或いは「1週間の勤務時間が○時間以上ないと対象になりません」みたいなよくある条件はありません。
極端な話、週3回、半日だけ勤務みたいなあまり長い時間働かなくても制度の対象になります。なので緩い働き方で良いのであれば、2年程度続けることは楽勝です。
しかも全産業が人手不足で苦しんでいる中で、介護業界は特に人手不足でハッキリ言えば「来るもの拒まず」で人を採用している事業所はかなりの数になります。
これは労働者側には周知の事実です。だから「短時間しか働けないですけど」と言われて、本当はもっと働いてほしいと思っていても「いないよりはいい」という考えで雇ってしまえば、雇った事業所側はずっと足元を見られるような状態になります。
こういう人がどんな働き方をするかというと
・責任感0
・退社時間になったら、やりかけの仕事があっても引き継ぎや連絡もせずにいなくなる
・上記のような勤務態度を注意すると、ふてくされたり、場合によっては「パワハラされた」と被害者ぶる
大体こんな感じです。こういう人材は職場に有益どころがマイナスの影響しか与えません。
この人達の対応に優秀な職員ほど「自分達のやり方にも問題があるのではないか?」とマジメに考えてしまい、やがて疲弊していきます。
しかしこんな人達の対応に真剣になってもムダです。何故ならこの人達は最初から2年間適当に働いて、40万円の返済が免除されれば辞めるのが目的なのだから。
幾ら仕事を真剣に教えても2年で辞めてしまう。これでは最初は真剣に新人を指導していた人も「どうせ意味ない」という考えになり、本当に優秀な人材が来たとしても適当な指導をして「ここはダメだ」と逃げられてしまう。こうして職場環境が悪化させる原因を作ってしまうのです。
②40万円程度のお金に、多くの元介護職員が飛びつくと思っている国の浅はかさ
皆さんはこの制度の印象についてどう思いますか?僕がまず感じたのは
「40万円程度で、介護職を釣ろうとするなんて。国は完全に介護職をバカにしている」
これです。思わず怒りがこみ上げてきました。
この制度の正体は
40万円で半強制的に2年間介護業務をやらせる制度
国の考えはこうです。
「仕事もしていない、元介護職の人達はどうせお金がなくて困っているんでしょ。2年間また介護職として働いたら、40万円恵んでやってもいいよ」
これです。バカにしてますよね。たかだか40万円くらいなら、2ヶ月もマジメに働けば誰でも稼げます。しかしこの制度を使ってしまえば、精神的には2年もの間国に縛られてしまいます。
「もし介護職を辞めたら、一気に40万円の借金を背負う事になる」
このプレッシャーと不自由さから来るストレスは、40万円を遥かに超える損失を制度を利用した人に確実に与えます。
「介護職として復職するだけで、祝い金として40万円あげます」ならまだ良いのですが、僕が考えるにこの制度は確実に利用する側に不利な制度と言えます。
どういう制度設計にするのが良いのか?
ここまで再就職準備金貸付事業が愚策な理由について説明しましたが、ではどのような制度設計にするのが良いのでしょうか?
①現在頑張っている介護職にお金を分配
介護職の絶対数を増やすのも確かに大事でしょう。しかし理不尽で理解のない上司の要求や、権利意識が過剰な利用者や家族の要望。自分勝手で非常識な同僚等、様々な苦難にも歯を食いしばりながら、毎日汗水流し過酷な労働を、到底労働の大変さと釣り合わない「アホか!」と思わず言いたくなる低賃金でやらされている現役の介護職員の人の多くはこう思っているのではないでしょうか?
「そんなもんに金使う余裕があるなら、自分達に回せよ!」
これに対して国は「現役の人には特定加算等で手厚くしているだろう」と主張するでしょう。
特定加算の詳細については特定加算は専任の居宅ケアマネ対象外 これはケアマネとして黙っていられないをご覧ください。
しかしこれですごく給料が良くなったと感じている人は少数でしょう。感覚としては「ちょっとだけ増えたけど、生活が楽になる程ではない」だと思います。
つまり現状は現役で頑張っている人への金銭的な支援が全然足りていないのです。それにも関わらず「あっちにも使い、こっちにも使い」と限られた財源をあちこちに散らしてしまうものだから全部が中途半端な効果しか出ていないのです。
正直やる気のない介護職員が2年間だけ復帰するよりも、現在一生懸命頑張ってやってくれている人が辞めずに続けられるほうが、最終的な生産性は高いと僕は思っています。
まずは現役の人を全力でサポートする。これが大事ではないでしょうか?
②渡すお金を徐々に増やす
僕がこの制度の最も嫌な部分が
「40万円程度のお金で、人を2年間縛ろうとする事」
これはつまり「こうでもしないと、金だけ取ってすぐ逃げるだろう」という隠れたメッセージがあり、多くの人が制度を利用する人を疑う前提で作られた事を何となく感じています。
人は最初っから疑われた状態で始まったものには反発したくなります。その結果この制度を利用してもそれほど人材が増えるという結果には繋がらないのです。
それよりも「頑張ったら、頑張った分報われる」という制度設計にしてはどうでしょう。
例えば就職してくれるだけで祝い金として1万円。3ヶ月続けばもう1万円。半年続けばさらに1万円。1年続けば1年続いたお祝いに3万円。3年続けば5万円。さらに就職3年以内に介護福祉士を取得すれば追加ボーナス5万円。
こんな感じで頑張って続ければ続ける程報われた方が結果的に続ける人が増えるのではないでしょうか。今の仕組みの「2年耐えてさよなら」よりよっぽどマシだと思います。
まとめ
今回は介護職の再就職準備金貸し付け制度について紹介させてもらいました。
・1年以上介護食としての経験があり、ヘルパー2級以上持っている人が対象
・2年間介護職として勤務すれば、借りたお金(最大40万円)の返済免除(ブラック企業等に就職してしまっても、継続して働けば免除になる)