僕達ケアマネジャーは、仲介者的な役割と立場から様々な苦情を聞く機会が多いです。そして、ケアマネジャーは利用者や家族からの苦情に適切に対応する義務があります。
その為ケアマネジャーは苦情対応から逃げることはできません。でもこの苦情対応が苦手な人も多く、「あの訪問介護事業所のヘルパーが悪く、私は何も悪くない」等他人事のように考えたり、責任を他者に押し付けていないでしょうか?
しかしこれでは何も解決せず、さらに問題がこじれて利用者や家族との信頼関係が崩れてしまいます。逆に苦情に適切に対応できれば、信頼関係がこれまでより良好になる可能性もあります。まさに「ピンチはチャンス」です。
そこで今回はケアマネがやるべき苦情対応の方法についてご紹介します。
<苦情訴え時の基本対応>
・こちらが感情的にならずに、まずは相手の話を最後までよく聴く
・苦情の内容を聴き取り原因、処理方法などを判断する
・相手の立場にたって共感する態度をとる
・言い訳、責任回避ととられそうな言葉は避ける
・焦らず、じっくり時間をかける
苦情の対応手順
①まず冷静になって話しをする土壌作りを行う
・相手と対面する形で苦情を聞いている場合は、まず座ってもらってください。これは人間は座っているより立っている状態のほうが感情的になりやすい為です。
・相手が大声で苦情を訴えている時、こちらは少し小さい声で対応してみてください。大声で話していると、自分の大きな声にさらに怒りやイライラが増幅していくというメカニズムが人間にはあります。しかしこちらがごく普通の声量で話していくと、徐々に声量を落としていって、それに合わせて少しずつ冷静になっていきやすいです。
間違っても「他の方の迷惑になりますので、もう少し静かに喋ってくれませんか」等言ってはいけません。「私がウルサイということか!」とさらに怒りが増幅してしまいます。
・苦情を聞く場所は適切か考える
事業所の受付や、サービス提供場所でいきなり苦情を言われた場合は静かで落ち着いて話ができる場所(応接室や相談室等)へご案内できないか検討してください。
不特定多数の人に見られている場所で苦情を言うことは「私がクレーマーだと他の人に思われているのではないか。こちらは悪くないのに・・・」といった心情になり、イライラが増幅してしまう原因になってしまいます。落ち着いた雰囲気や環境で話ができることも大切です。
②相手の言う事を感情的にならずに謙虚に聴く
・相手が感情的になっている間は、その内容に関わらず途中で話を遮ったり反論せずに、話を聞くことに集中してください。苦情を言っている状態で話を遮られると、それだけで「私の話を聞こうとしていない」と相手はさらにイライラしてきます。逆に自分の言いたいことを言い終えると、怒りやイライラの感情が発散され、少しずつ冷静になってきます。
また事実関係がはっきりしない時は基本的に相手の言い分を尊重し対処します。言った、言わないの無益な論争に発展しないように努めてください。
③苦情を聞くときの態度
Ⅰ:相槌を入れる
例):共感する態度で「そうなんですか」
相手の言葉を繰り返す。「○○という事だったんですか」
Ⅱ:表情や姿勢
苦情を聞くときの表情や姿勢にも注意してください。言葉は丁寧だったとしても、表情や姿勢に「真摯に苦情に対応する気がない」と相手が感じることがあってはいけません。
・表情
─神妙な表情で。中途半端な笑顔を見せない(ヘラヘラした印象を与えてしまう)
─眉間にシワを寄せない
─キョロキョロ目を泳がせない。かといって相手を凝視しすぎない
・姿勢
─背筋を伸ばして猫背にならないようにする
─頭をうつむかせない
─足を組んだり、「トントン」と床を踏んだりしない
─後ろ手や腕組みをしない
Ⅲ:メモを取る
苦情に対して重要なこと、必要と思われることはメモを取りましょう。メモを取ることは話の内容を整理する上でも役立ちます。後で責任者に報告するときも、メモがあるとあやふやにならず、正確に状況を伝えられます。
メモを取るときは、事実と相手の心情の部分をそれぞれ整理すると、苦情のメカニズムが見えてきます。
④相手が冷静になってきたら
「現在までの詳しい経過を教えてくださいませんか」と、分からなかった部分を質問します。そして苦情の原因を正確に把握できるようにしていきます。
⑤丁寧な説明
・相手に苦情の内容を理解している事を伝え、どうしてそのような事態になっているのかを説明します。自分で判断ができないときは責任者の判断を仰ぎます。
・苦情先が自分の担当部署と異なる場合。(訪問介護のヘルパーに対する苦情など)担当部署の責任者とすぐ変われる場合は担当者に代わった方がよいかどうか確認して対応します。代わる場合は担当者に苦情の経緯や内容を簡単に伝えましょう。
⑥報告
苦情対応が一通り終了したら責任者へ内容を報告します。また苦情報告書などの記録を速やかに作成します。今後同じような内容の苦情が発生しないよう対応を関係者全員で検討します。
※法律や制度のルールで出来ない事に対する苦情の訴え
これに関してはできるだけ専門用語は控え、簡易な表現で、しかしはっきりとその根拠を伝える。ただし機械的な、突き放したような言い方はせず相手の立場に共感した言葉を遣う。
「ご事情は分かりました。しかし現状のルール上は○○となってまして、△△のようにはして差し上げれないのです。なんとかご理解いただけないでしょうか」等
この時ただできないというだけでなく、ニーズに応える別の方法を検討し提案してみましょう。そうすることで相手は「真摯に対応してもらった」と感じ、苦情を言う前より信頼関係が強くなってきます。
やってはいけないNG対応
その① : 相手の怒りを増幅させる不適切な言動をする
どんなクレームであっても、相手の怒りを増すような言動は慎む必要があります。もしかしたら、大切なクライエントを失うことになるかもしれません。
では具体的に、どんな言葉に気をつけたら良いのでしょうか。
苦情を言ってきた人が話をしたいのは個人ではなく、事業所そのものに対しての事もあります。担当が誰であるかはこちらの都合であり、相手には関係のないことです。たとえ担当ではなくても、話をきちんと聞いたり、担当者にすぐつないだり誠実に対応しましょう。
相手の不注意や間違いを指摘するような言い方もNGです。自分たちにとっては当たり前のことを、相手も同じように把握しているとは限りません。たとえ書いてあったり、說明済みの内容だとしても相手の心情に配慮した言葉の選択が必要です。
決まり事は、会社やお店の都合であり、相手には関係のないこと。「客より会社の都合優先なのか」というさらなる怒りにつながりかねません。
ただ、カラオケの利用時間など、お客さまに守っていただきたい決まりやルールがあることも事実です。そういったクレームを受けたら、速やかに社員や店長につなぎ、判断を仰ぐようにしましょう。
この言い方は、クレーム対応ではなくても使わないほうが良いでしょう。「あなたは普通ではない」と言っていることと同じになってしまうからです。もしも自分が普通ではないといわれたら、嫌な気持ちになりますよね。
こちら側の非を認めず、相手に責任を押しつけるような逆切れともとれる言動もNGです。場合によってはクレーム内容が悪意のある言いがかりということもあります。しかし、そんなときこそ冷静に相手の話を聞き、状況を判断して対処することが大切です。
その② : 相手の間違いを指摘する
相手の間違いや勘違いでクレームが発生していた事が分かっても、そのことをストレートに指摘すると、相手はより逆上してしまう場合があります。
間違いや勘違いは誰にでもあることです。「表現がわかりにくくて申し訳ありませんでした」「説明不足で失礼いたしました」など、相手には非がないという姿勢で伝えれば、クレームが感謝につながることもあります。
その③ : 相手の話を遮る
先述した通りですが、話を聞いているうちに「いや、そうではなくて……」と話を遮りたくなることもあります。しかし、そこはぐっと我慢です。誰でも話を遮られると不愉快な気持ちになり余計にイライラします。言うだけ言えば、お客さまの怒りが収まってくることもあります。
クレームを受ける手順の第一は、相手の言い分にしっかり耳を傾けることです。
その④ : 「うん」と相づちする
相手の話をよく聞く姿勢は大切ですが、「うん」という相づちには、敬意が感じられません。お客さまの心情に寄り添おうとする気持ちが「うん」という相づちとなって出ることもありますが、それを不快に思う人がいることも事実です。
「うん」ではなく「はい」「ええ」と答えることを心がけましょう。
その⑤ : たらい回しにする
「私担当ではないので、こちらの電話番号にかけ直してもらえますか?」などのたらい回し対応は相手の不快感を増大させます。基本的には受けた自分が対応して、上司などの責任者と一緒にその場で解決できるように動いていきましょう。
苦情内容によっては別の部署や事業所とのやりとりが必要な場合には、「私から担当者に伝え、すぐにご連絡いたします」と対応すれば、たらい回しにはなりませんし、相手も安心感を得られます。
まとめ
ケアマネに必要な苦情対応のポイントは
冷静になって話を聞く環境を作る
相手の話を遮らず、真摯に聞く
相槌や表情、姿勢などに注意
相手の間違えを指摘しない
たらい回しにせず、責任者などと連携して対応する
上記のような事を紹介させてもらいました。どれも、利用者や家族との信頼関係を築いていき、事業所の適切な運営の為には必要な事です。
次回は苦情の記録や、苦情を受けた後の対応方法について紹介します。