この記事はこんな人の役に立ちます
家族と向き合うための基本的姿勢
①信頼関係を築く
看取りケアに限りませんが、まずは信頼関係を築く必要があります。どれ程素晴らしいケアを行えても、家族との信頼が無ければ看取りケアが終わった後のグリーフケアを行う事もできませんし、やったとしても形だけのものになってしまいます。
そうなっては、看取りケアを一生懸命やったスタッフのモチベーションの大きな低下は避けられません。スタッフのモチベーションが下がれば、その後施設で質の高い看取りケアは困難になります。
ではどうすれば良いのでしょうか?
②積極的にコミュニケーションをとる
信頼関係を築くための基本的な姿勢は、とにかく頻繁にコミュニケーションを全職種で行うのが望ましいです。
施設によっては医師や相談員等、特定の窓口以外のスタッフは家族とのコミュニケーションをあまり取らないようにしているところもあります。しかしこれはあまりよくありません。
何故なら、担当窓口が家族が来所したときや電話をかけた時に必ずいるわけではないからです。家族としては、自分達が聞きたい事がある時にすぐにやり取りができる事が安心になり、それが信頼になるのです。
窓口を限定している事業所は「昨日○○という看護師は調子が良かったと言ったのに、今日来たら熱が出てグッタリしている。どういうことだ?」といった感じで言質を取られないようにする目的があります。
しかしそもそも看取りを依頼するのですから、それなりに信頼がないと頼まれません。それなのにそういう事を言われてしまうのは、普段からの関係ができていないとも言えます。
例えば医学の専門的な事についての質問の受け答えは医師や看護師が行うが、日常的な内容(例:今日は美味しいと言って嬉しそうにご飯を食べてくれました、等)であれば介護職などでも行えます。仮に相手から質問が無くても、こちらから積極的に伝えるくらいの気持ちがあれば自然と信頼関係ができてくるでしょう。
家族が抱えている3つの負担を理解する
①地理的負担
②経済的負担
③身体的・心理的負担
家族との距離感のとり方
①入居前後
新しい環境への不安や契約をはじめとする様々な事務手続き、各職種から状態の聞き取りがある時期なのでコミュニケーション自体は取る機会が多いですが、家族も緊張しておりすぐに信頼関係が構築できる時期ではありません。
この時期はなるべく家族の小さな要望でも、対応できる姿勢を見せそれに応えていく努力をする事で信頼関係の形成速度が早くなります。
また家族の考えを否定しないようにしながらも、施設でできることやできない事をきちんと伝えておくことが大切になります。
②入居後3ヶ月程
最初作成したケアプランの想定と異なる面も見えてき、最初のケアプランの見直しのタイミングになることが多いと思います。ここで現状をポイントを絞って分かりやすく伝えつつ、今後の方針も話し合っていきます。
この時期になると家族も職員もお互いに少しずつ顔を覚えてきて、家族も施設の雰囲気に慣れてきます。その為面会に来た時には職員からも積極的に声掛けを行い、現在の様子を伝えつつも過去の本人の生活状況等も聞き取る事で、現状のケアに反映できるよう努めます。
③体調不良、事故発生時
施設でケアをしていれば、予測ができないような体調の変化や転倒などの事故が発生します。
そうした場合に連絡をする担当者が決まっている所もあると思いますが、担当職員以外でもその状況や今後どうしていくのかといった事は同じように説明できるようにしておく必要があります。
なぜかというと、もし担当職員以外が体調不良や事故について話してはいけないような体制だと、それ以外の会話も職員が避けるようになってしまうからです。
「何気ない会話をしていたら、先日の転倒の件について尋ねられて困ってしまった。だったらなるべく話さないようにしよう」
こんな思考に多くの職員がなってしまったら危険信号。せっかく築いた家族との信頼関係が無くなってしまいます。全員が同じ見解を共有しておくことが大切です。
④看取り期
食事があまり食べれず寝て過ごす時間が増える。自分で動くことも困難になってくるといよいよ最期の時が近いです。
この時に医師等、医療職を中心に今後のケア内容と経過を説明します。何度も看取りケアをしている職員にとっては当たり前の事でも、初めて経験する家族にとっては戸惑い分からない事だらけです。その気持を理解し、受け止める事が求められます。
この時期は家族も動揺します。昨日までは「最期までこの施設でお願いします」と言っていたかと思えば、今日は「やはり病院でしっかり診てもらうほうがいいような気がして・・・」と二転三転することもあります。しかしそれは普通の事です。間違っても「あの家族は決断力がない」等と批判的な気持ちを持たない事が大切です。
この時に必要なのは「こっちのほうがいいですよ」等と言うことよりも、「お母さんがこんな状態だと不安ですよね。自分の判断が正しいのか悩みますよね。○○さんは、こんなに家族に自分の事真剣に考えてもらって、きっと喜んでると思います」
こんな感じで寄り添う対応のほうが遥かに重要です。そして家族の決断を最大限尊重する姿勢を全職員が持ち、それを示す事。これが家族も職員もどちらもが納得できる看取りをする為に必要なのです。
まとめ
今回は施設で看取りケアをする家族との向き合い方について紹介させてもらいました。
大切なのは例え施設であっても、自分の身内が死ぬのを待つ状態というのは、理屈では理解していても感情的には不安は完全に拭えないという事です。
これを理解しておけば、自然と必要な対応ができるようになってきます。
看取りケアは、その人の最期を支えるという特別な仕事です。その経験は専門職としても人としても大きく成長させてくれます。そこから逃げずに「利用者さんが自分の大切な命を使って、勉強させてくれているんだ」と感謝の気持ちを忘れず精一杯できることを頑張ってほしいと思います。