前回は生活保護を受けるための最低生活費の計算方法について説明しました。
でも、その金額を年金などの収入が下回っているだけでは生活保護を受けることができません。
なので、今日は生活保護を受けるために必要な4つの要件を紹介します。
要件①資産の活用
「預貯金、生活に利用されていない土地、家屋、生命保険の解約返戻金等があれば売却・解約し生活費に充てるようにしなければならない」
これは貯金はもちろん、不動産や保険関係の返戻金、さらに投資などで売却可能な株を持っている人などは全て売ってお金を作れということです。
ここで「じゃあ、自宅はどうなるの?」と疑問が生じると思います。自宅に関しては所有して良いものと、売却をしなければいけないものに分かれます。
・売却しなければいけない自宅
住宅ローンが残っている自宅。
これは、生活保護で住宅ローンを返済しようとしてしまうと、生活保護費で個人の資産形成を援助するような形になってしまい、本来の目的から逸れてしまう為です。
・所有が認められている自宅
住宅ローンのない家
まあ、そのまんまですね(笑)ただし、住宅ローンが完済されていても、その自宅を売却した場合に相当な金額がつくのであれば、売却するように言われます。
市町村毎にその金額基準が異なるのでなんとも言えませんが、2000~3000万円以上であれば売却をするように言われることが多いようです。
要件②能力の活用
「働くことが可能な人は、その能力に応じて働くことを検討する」
「働けるのであれば、あらゆる努力をして収入を得るようにしなければならない」
ということです。まあ当然といえば当然ですよね。もう少し掘り下げていくと
保護の要件(稼働能力の活用)の在り方について
稼動能力の活用については、(1)稼動能力を有するか、(2)その能力を活用する意思があるか、(3)実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否かの要素により判断することとされている。 例えば求職活動を行っていても現実に働く職場がない場合には保護を受けることができ、よって、申請時において、単に稼動年齢層であるのに就労していないことをもって申請を却下することは適当ではない。 一方、稼働能力の活用に関する判例(平成9年8月8日名古屋高裁判決。平成13年2月13日最高裁判決も同判決の内容を支持。)では、紹介された就業先への就業のための努力や自己の稼働能力に応じた就業場所を開拓しようとする努力がなければ保護の要件を充足しないとされており、稼働能力の活用については、本人の就労に向けた努力により客観的に判断することが必要。 厚生労働省HPより引用
基本的には「最大限の努力をして働いて収入を得るように努めなさい」ということなのですが、性別・年齢・学歴・職業歴・特技・体調(メンタル状態も含む)等様々な条件が個々人で異なります。
その個々人の置かれた状況で、就労を得るための努力をしている場合は就業をしていなくても生活保護が認められるケースがあります。
一般的に後期高齢者レベルであれば、就労は困難な為就労していなくても認められるケースが多いです。ただ第2号被保険者などで、就労可能な状態と判断された場合はハローワークで仕事を探す等、定期的な就労活動をしていないと認められない場合もあります。この辺りの判断は本当にケース・バイ・ケースと思ったほうが良いでしょう。
③あらゆるものの活用
「年金や手当など、他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用する」
これは、様々な社会保障制度がある中で生活保護は「全ての社会保障制度を駆使しても、それでも不十分な場合の最後のセーフティーネット」という意味です。
なので優先的に他の制度を利用しているかどうかということが審査されます。
④扶養義務者の扶養
「親族などから援助を受けることができる場合は、援助を受ける。その上で世帯の収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用される」
生活保護制度でよく言われている「扶養義務者の扶養」いわゆる親族による扶養が可能かどうかという事です。
ただしこれ、よく誤解されているのですが「親族全員が最大限の努力をして扶養しなければならないのか?」という事です。
これに対して一つの回答があります。
求められる扶養の程度
~強い扶養義務を負うのは,夫婦と未成熟の子に対する親だけである。
~兄弟姉妹や成人した子の老親に対する扶養義務は,「義務者がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえでなお余裕があれば援助する義務」にとどまる。
~具体的な扶養の方法程度は,まずは当事者の協議で決める。
~協議が調わないときは家庭裁判所が決めるが,個別ケースに応じて様々な事情を考慮するので一律機械的にはじき出されるものではない。(引用:生活保護問題対策全国会議HP 民法上の通説)
つまり強い扶養義務は
・夫婦相互
・未成熟の子に対する親
これだけです。それ以外の場合は例え3親等内の親族であったとしても「余裕があれば援助する義務にとどまる」のです。
過去に某お笑いタレントが収入があるにも関わらず、老親が生活保護を受けていることに「扶養義務を果たしていない、けしからん」と大バッシングを浴びました。
しかし、これはこの原則から外れており「その人の生活に支障をきたさない、余力がある範囲でお願いします」という程度の扶養義務の為、批判される事自体、本来おかしなことであったのです。
これに関しては強い扶養義務のない親族には、福祉事務所から「扶養ができませんか?」というような通知が送られてくることがありますが、現実にはあまり積極的な援助をしますよという回答は少なく、成人で独り身などの場合は期待が難しい面があります。
まとめ
今回は生活保護を受ける為に必要な4つの要件を紹介させてもらいました。簡単に言えば「あらゆるものを活用して、それでも無理な時の最後の手段ですよ」という感じですね。
最近では増え続ける受給者と、不正受給金額の増大で申請が通りにくくなっているように感じます。しかしちゃんとこのような要件を押さえて相談に行くことができれば話もスムーズに進みやすいと思います。
ケアマネとして、こういった制度の趣旨を是非知っておきましょう