先日僕がこの業界で最もリスペクトしているmasa様からこんな投稿がされていました。
詳細は直接見ていただきたいのですが、この加算のルール上特養などの法人に勤めている職員のうち併設の居宅事業所の専任のケアマネは対象になっていない為、給与改善されない可能性が高いということです。
ケアマネにとってなんともショッキングな内容ですが、まずはこの記事に書かれている「介護職員等特定処遇改善加算」とはそもそも何なのかということを説明しながら、この件について解説したいと思います。
介護職員等特定処遇改善加算とは
加算の目的
介護職員の処遇を改善する為の加算は、これまでに「介護職員等処遇改善加算」というものがありました。これは介護職員全般に対しての給与改善を目的とした加算でした。では今回の加算は何なのでしょうか?
この介護職員等特定処遇改善加算(以下特定加算)の目的はリーダー級の介護職員の給与を改善し、それ以外の介護職と差別化することでキャリアアップできる業界にし、能力の高い職員の離職を防ぎつつ、多くの職員がキャリアアップの為に技能の習得に励みやすくすることを狙いとしています。具体的なリーダー級のイメージは「勤続10年以上の介護福祉士」これが基本になります。
制度概要
この特定加算は既存の処遇改善加算に上乗せして、介護報酬を受け取れる仕組みになっています。
キャリアパス要件
要件①:職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系を整備すること。
要件②:資質向上のための計画を策定し、研修の実施または研修の機会を設けること。
要件③:経験もしくは資格などに応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること。
職場環境等要件:賃金改善以外の処遇改善の取り組みを実施すること。
特定加算の取得要件
①処遇改善加算の、加算(Ⅰ)から(Ⅲ)のいずれかを取得していること。
②処遇改善加算の職場環境等要件の中で、「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」の各区分について、1つ以上の取り組みを行っていること。
③処遇改善の取り組みについて、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」やホームページへの掲載を通じて、「見える化」を行っていること。
※特定加算(Ⅰ)を取得するためには、サービス提供体制強化加算、特定事業所加算、日常生活継続支援加算、入居継続支援加算のいずれかを取得していること。ただしサービス提供体制強化加算は最も高い区分、特定事業所加算は従事者要件のある区分に限られる。
この条件が満たせない場合は特定加算(Ⅱ)になる
特定加算の加算率
特定加算の配分ルール
この加算は職員を3つのグループに分け、そのグループごとの配分ルールが設けられているという特徴があります。
グループA:「経験・技能のある介護職員」
事業所の中で月8万円の処遇改善となる人、または年収の見込み額が440万円を超える人がいること。
なお「経験・技能のある介護職員」は、勤続10年以上の介護福祉士が基本となりますが、「勤続10年以上」の判断には事業所の裁量が認められています。ほかの法人などでの勤務期間を勤続年数に加えることや、「勤続10年以上」ではない人を独自の能力評価に基づいて加算の対象とすることも認められています。
つまり今勤めている事業所での勤務経験はまだ数年でも、他の事業所での経験を合わせてもまだ10年に達していなくても、事業所が「リーダーとしての手腕を発揮してほしい。そのポジションにつくだけの価値ある人材」と判断すれば10年の勤務という数字が絶対ではないということです。ただ、介護福祉士をもっていることは絶対条件です。
グループB:「その他の介護職員」
「経験・技能のある介護職員」の平均引き上げ額を、「その他の介護職員」の2倍以上とすること。
この特定加算。冒頭でも基本はリーダー級の有能な介護職員への待遇を手厚くすることを前提としていますが、それ以外の介護職員への配分もあります。
その他の介護職員とは介護福祉士資格はないが、経験10年以上ある人。あるいは介護福祉士資格はもっているがまだ経験が浅く、グループAの職責を果たすことが難しい人などです。ただし、経験が10年以上ある介護福祉士をこのグループに入れることはできません。
例えばですが、グループAの該当者が5人いてその5人の給与の引き上げ平均額が6万円だったとします。その場合、グループBに該当者が10人いたとすると引き上げの平均額は3万円以下になるように設定する必要があります。
ちなみに、全員同じ金額で引き上げを行う必要はありません。例えばですがグループAでも8万円引き上げる人がいれば、4万円の引き上げしかない場合があってもよいというルールです。
グループC:「その他の職種の職員」
平均引き上げ額が、「その他の介護職員」の2分の1を上回らないこと。
特定加算は、対象事業に従事している介護職以外の職種にも配分があり、このグループCがそうです。ルールとして先程の例から、グループBの平均引き上げ額が3万円の場合、このグループの平均引き上げ額は1.5万円以下になるように設定する必要があります。
そして、今回masa様が指摘されているのが、Q&AからこのグループCに該当する条件です。
(問 13 )本部の人事、事業部等で働く者など、法人内で介護に従事していない職員について、 「その他職種」に区分し、特定加算による処遇改善の対象とすることは可能か。
(答) 特定加算の算定対象サービス事業所における業務を行っていると判断できる場合には、その他の職種に含めることができる。ということは、「特定加算の算定対象サービス事業所における業務を行っていると判断できない場合」は、「その他の職種」に含めることができなくなり、加算を配分できないということになる。そうすると居宅介護支援事業所の介護支援専門員の専従者は、どう転がってもこの加算の配分対象にならないことになる。
つまり、上記に記載した加算対象事業に何かしらの形で業務に従事している場合はグループCに該当するが、どう考えても対象事業には居宅介護支援事業は含まれまていません。
例えば特養等に併設の居宅のケアマネで、ケアマネ業務と兼任で通所介護等の介護業務も行っている場合は、通所介護が加算の配分対象事業ですので対象職員になりますが、専任でやっている場合は該当しないということです。
ちなみに特養などの施設ケアマネは、対象事業の職員ですので専任でも加算対象の職員になります。
そして、この特定加算。ほとんどの介護事業が対象になっているのに、居宅だけ対象外。
「居宅のケアマネは介護業務しないんだから当然でしょう」
そんな声が聞こえてきそうですが、居宅のケアマネは場合によっては利用者の受診に同行し必要な時はトイレ介助も行ったりします。ショートステイの利用前には薬の準備を一緒に手伝ったり、以外と介護業務的な事を現実にはやらなければいけない事はあります。それなのに、多くの職員が恩恵を受けられる特定加算に居宅の専任ケアマネだけ対象外とはあんまりではないだろうか?
この不平等に事業所はどうすべきなのか?
今回のルール上、特定加算の財源からは給与アップの処遇改善は居宅の専任ケアマネには行なえません。
しかし、法人内の多くの職員の給与がアップするなか、特定加算の対象外という理由だけで居宅の専任ケアマネだけ給与改善されないという対応は果たして適切と言えるのでしょうか?
ケアマネにはどんどん求められることが増えてきてます。例えば介護離職の防止もケアマネの義務といわんばかりに、国はそのような方向性で調整をしている動きがあります。
しかも、何か不都合なことがあれば「ケアマネが悪いからこうなった」と利用者、家族、サービス事業所、医療機関、地域、行政、果ては厚労省や財務省まで言い出し批判の的になりやすいのが、僕達ケアマネです。
そのような中、必死で頑張って利用者や家族の支援をしているケアマネがたくさんいる事を僕は現場の最前線で見てきている為知っています。そのケアマネに対して何の恩恵も無しというのはあんまりではないでしょうか?
特定加算で何の配分も無かった場合、ケアマネの不満感がかなり高まります。そして退職者が増加し、給与も経験がある人なら介護職のほうが上回った結果、これからの担い手もいなくなってしまうでしょう。その結果ケアマネが絶滅危惧種並みの職種に成り果ててしまう可能性すらあります。そんな事になったら、一体誰がマネジメントを行って、ケアプランを作るというのでしょうか?
このような最悪の事態を避ける為にも、masa様も言われていることですが法人や事業所は特定加算以外の財源から居宅の専任ケアマネにも給与改善する必要があるでしょう。仮に月数千円程度の手当でもつけば嬉しいものです。優秀なケアマネを離職により失う損失は計り知れません。はっきり言って募集をかけても優秀なケアマネはすぐに来ません。来るのは経験0の人か、昔経験あるがブランクの長い人のどちらかで即戦力は期待できず、育つのに数年かかります。(その前に辞める可能性も高い)
多少のお金を支払ってでも、優秀なケアマネにこれからも働きづつ付けてもらうのか?それとも必要なコストの支払いをケチって「人財」を失うのか?この特定加算が取れる10月以降、各法人、事業所の賢明な判断が求められます。そして正しい決断が行える法人・事業所だけがこれから生き残っていけるでしょう。
一つはっきり言えるのは、ケアマネをないがしろにするような法人や事業所に明るい未来はないということです。
引用資料:花王プロフェッショナル業務改善ナビ