東京・足立区と、群馬県内で老人ホームを運営する会社の社長が、職員に給料を払わないまま姿を消した事件。すぐには終息する気配が見られません。
「施設を閉鎖する」突如姿消した老人ホーム社長を直撃「法務対応で…」 給料未払い・職員が大量退職で「50人を1人で見る状況」
記事によると、職員への給料未払いが続いていたようでこの状況に憤慨した職員30人が一斉退職。
入居者へのケアがまともにできない機能不全の状態に陥っているようです。当然ですよね、介護の仕事は別にボランティアじゃない。仕事の対価である給料が支払われないなら、職員が辞めるのは当たり前すぎる結果です。
この施設に対しては行政が立ち入り調査に入ったようですが、こんな事態になってからでは時すでに遅しといったところでしょう。こんな事になるまえに介入するのが行政の責務と考えると今回の事件は行政の怠慢も原因と思われます。
情報によると、一部の元職員がボランティアとして利用者の次の受け入れ先が決まるまで最低限の生活のお世話などしているようですが、それもいつまでもできないでしょう。
行政が区や都の介護福祉士会などに協力を要請し、別の事業所の職員を一時的に派遣。地域のケアマネなどにも協力してもらい、早急に受け入れ先を見つけることが必要です。
今回の記事では、現役ケアマネ兼ブロガーである僕からいくつか提言をしたいと思います。
なぜこのような事件が起きたのか?
今回の事件が起きた理由として、まずは施設の類型が住宅型有料老人ホームというのがあります。
生活支援等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設です。
介護が必要となった場合、入居者自身の選択により、地域の訪問介護等の介護サービスを利用しながら当該
有料老人ホームの居室での生活を継続することが可能です。引用元:厚生労働省HP 別表「有料老人ホームの類型」より一部抜粋
一般的な介護施設というと、入居者が当然に介護が必要。だから介護スタッフが夜勤も含めて常にいていつでも必要な介護サービスが提供できる。そういうイメージだと思います。
しかし住宅型有料老人ホームは違います。普通の施設よりは介護度が低い人が多い。介護度でいえば要支援~要介護1レベルの人も全然いる。
このレベルの人は当然ですが、常に介護を要する状態ではありません。基本的な生活は自立しているけど、家事などのIADLにサポートが必要な程度。
住宅型有料老人ホームの基本的な仕組みとしては、このような家事などの生活をサポートするスタッフが少数いるだけ。それ以上のサービスが必要であれば在宅の介護サービスを利用してもらう。
たとえば住宅型有料老人ホームに外部のヘルパーが来て必要なケアをしてもらう。必要なら自分で好きなデイサービスに行く、みたいなイメージです。
この住宅型有料老人ホームの運営側の最大のメリットは人員基準が緩いという事です。
基本的に管理者が一人配置義務を設けられているだけで、それ以外の人員基準は設けられていません。つまり介護施設でありながら介護士の人員配置が義務づけられていないのです。
その為箱さえ作ってしまえば、人を集める事ができなくても運営できます。
高齢者はお金をたくさん持っている。そしてこれからは介護サービスへの需要はどんどん増える事が予想される。その流れでできるだけ人件費を抑えて介護施設を運営できれば美味しいですよね。
しかしそんな美味い話が転がっているわけありません。現実には賃貸マンションみたいに管理人が一人いればOKなんてことはほぼないです。
家事などの生活サポートだけでは難しく、ちょっとした介護が必要な事がほとんどです。そもそもそこまで自立度が高いのであればわざわざ高いお金を支払って施設になんて入ってこないでしょうから。
そこで多くの運営が、自前の介護サービス(訪問介護、通所介護、ショートステイなど)を提供しており、そのスタッフが住宅型有料老人ホームの業務も兼任で行っている事が多いです。また住宅型有料老人ホームの入居者に自分達のサービスを介護保険で利用する事を勧めるというやり方が多いです。
これに関しては囲い込みと批判される事も多いですね。確かに利用者にそれ以外の選択肢が無いような説明をして囲い込む事は完全アウトですが、「自分達以外のサービスも使って良い」事をきちんと説明したうえで利用者が選択したのであれば問題ないと思います。
今回の事件ですが、介護スタッフ30人が一斉退職したと報道されています。住宅型単独でこれほどのスタッフを雇う事は無いため、恐らく併設で介護サービスも運営していたのだと思います。
このスタイルで事業を行う場合、介護スタッフの負担が大きいです。たとえばデイの通常業務だけでも大変なのに、その前後に住宅型有料老人ホームの業務も行う。下手をすればそのまま夜勤業務をやらせていた可能性もあります。
しかし住宅型有料老人ホームは介護付きと違って収益が低いのがデメリットです。その分先述したように開設しやすいのですが。
収益が低いのにかさむ人件費。しかも労働基準法にバリバリ違反しているような状態での運営。スタッフからも
「このまま改善が無いなら退職するか、労働基準監督署に訴える」みたいなプレッシャー。
最初は美味しいビジネスと思っていたのに、気が付けばどうしていいか分からなくなり逃亡。
介護事業の運営を甘く見ていた運営が招いた悲劇ではないでしょうか?
ヤバい施設を見分けるポイント
今回のような事件を起こす施設に大事な家族を入居させたくはないですよね。そこでヤバい施設を見抜く為のポイントをいくつかお伝えします。
①施設内が汚い
これは論外だと思いますが一応解説します。
・スタッフステーションのデスクの上が書類等で乱雑になっている
・廊下などの生活スペースに段ボールなどが置かれたままになっている
・床下にゴミが落ちているのに誰もそれを片付けようとしない
②職員が利用者にタメ口
職員で家族にいきなりタメ口を聞く人はまずいません。しかし利用者に対しては当たり前のようにタメ口で話すスタッフが結構多いのが、現在の介護業界の残念な所です。
なぜタメ口がダメなのか?それはタメ口を聞くと、無意識に「自分より下の相手。だから適当に扱ってよい」と考えてしまい、それがサービスの質の低下。最悪は虐待などの最初の引き金に繋がるからです。
利用者にタメ口を聞く職員が多い施設で、質の高いケアをしている所を僕は見た事がありません。あなたではなく、利用者への言葉遣いが正しくできているか?確認してみましょう。
③利用者の表情が暗い
当たり前ですが、僕達は毎日の生活が楽しければ自然と表情は生き生きしてきます。
反対に自分にとって不愉快な環境で生活していれば、自然と表情は暗くなってきます。
施設もキレイで職員の言葉遣いは丁寧でも利用者が暗い表情をしていれば、それはハリボテのような施設である可能性があります。外部から人が来たときだけ取り繕っており、普段は低レベルなケアを提供している可能性が高いです。
④職員の離職率が高い
介護業界は離職率が高い事で有名ですが、本当に良い事業所というのは実は離職率が低いです。
これは介護業界でトップクラスの運営者なら誰でも知っている事なのですが、介護の質を上げたければまずは「職員ファースト」を最優先。つまり職員がいかに働きやすい職場環境を作るかを考えないといけないのです。
現在ビジネスでハイパフォーマンスを発揮する為に注目度が高くなっているのが「心理的安全性」を高める事です。
要は職員が安心して働ける環境であれば、職員は辞めないし一生懸命全力で働く。その結果、質の高いケアの提供が可能になり、利用者にとっても良い結果になる。まさにwin-winという事です。
このような基本を分かっていない運営者は「利用者様にとって最高のサービスを」等と謳い文句と理想を押し付けるだけで、それを実現する職員は使い捨ての道具程度にしか考えない。
だから低賃金なうえ、たとえ残業しても残業代も支払おうともしない。通常業務より1時間以上早くこないと仕事が回らないような状況であっても放置。職員の善意を利用し搾取するだけ。良い仕事をしても褒めもしないが、ミスをすれば執拗に責める。
一体どこの誰が、このような職場で一生懸命働くというのか?当然辞めます。人が辞めるから良い人材が定着しないし育たない。そのような施設では当然質の高いケアなど望むことは不可能です。
離職率に関してはワムネットなどを見れば確認できます。また一般職員だけでなく、施設長クラスの役職者が頻繁に交代しているような施設はもっとヤバいと言えます。
僕と同じケアマネへメッセージ
僕達ケアマネは施設入居の希望があった場合に紹介を行う立場でもあります。
そこで自分が紹介した施設が、今回のような事件を起こせば紹介したあなたが責められるかもしれないし、そうでなくても僕達は自分を責めてしまい、メンタルを病んでしまう可能性があります。
だからこそ、ダメな施設をしっかり見抜く目を持つ事。また、普段から情報収集を行い「あの施設はヤバい」という情報をしっかり把握しておきましょう。火のない所に煙は立たぬと言います。同業者からそのような話が出る時点でヤバい事が多いものです。
自分やクライエントを守るためにも、ヤバい施設を紹介するのは避けるようにしましょう。
「ケアマネになりたい、でも試験に全然受からん」
こんな人へ。大丈夫、ケアマネ試験は正しい勉強方法を知っていれば誰でも受かります
僕が試験に一発合格した時に使った方法を教えます
次こそ試験に合格して、周りの人達を見返してやりましょう。その方法をこのnoteに余すことなく書き上げましたので、試験に受かりたい人は読んでみてください