令和6年4月13日、朝のニュースをチェックしていると、驚きのニュースが入ってきました
入浴介助中に80代の女性が溺死。介護士が書類送検されました。
業務上過失致死の疑いで書類送検されたのは、大阪市東住吉区の介護老人保健施設に勤務する介護士の女性(53)です。
警察によりますと、介護士はおととし9月、入所していた80代の女性の入浴介助中に数分間目を離し、女性を溺死させた疑いが持たれています。女性は寝たきりの状態で、この施設では、入浴介助中に目を離してはいけないルールがあったということです。
介護士は警察の調べに対し、当初は「タオルの片づけの作業で目を離した」と容疑を認めたものの、その後は黙秘しているということです。
引用元:YAHOOニュースより、一部抜粋
このニュースを見た時、瞬間的に僕はこう思いました
「またあずみの里のような不幸な事件が起きてしまった」
あずみの里の事件とは、特養で勤務していた准看護師の職員が入所者のおやつ介助中に誤嚥が起きて入所者が死亡したことに対して、職員個人に責任追及された裁判です。
詳細を知りたい方はコチラをご参照ください
施設には使用者責任があるから
そもそもですが、今回の事故に対してなぜ施設は職員をかばおうとしないのか?報道記事を見る限りだと、まるで職員に責任を負わせて、自分達は悪くないとでも言いたげな姿勢に見えます。
しかしそれは許されないでしょう。なぜなら施設には「使用者責任」があるからです。
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
引用元:民法第715条1項
使用者責任とは、会社(使用者)や事業監督者の不法行為責任のうちのひとつです。
具体的には、会社が雇用している従業員が加害者として業務上の過程における不法行為により第三者に損害を与えた場合、被害者である第三者に対して事業監督者である会社が賠償しなければならないルールです。
シンプルに言えば、会社で通常の業務を行った結果、起きた事故などの責任は基本的には従業員ではなく会社にあるという事です。
この使用者責任がある以上、今回のような普通に介護業務を行っている中で起きた事故の責任を負うのは本来は職員を雇っている施設にあるわけです。
それなのに職員個人に責任を負わそうとしているのはどう考えてもおかしいと言えます。
職員個人に責任が問われるのは、虐待などによる犯罪
そうは言っても、これまでも社員などが責任を負わされるニュースを見た事ありますけど
こんな風に考える人もいるでしょう。
使用者責任が適用されるのは、あくまでも従業員が通常の業務を行った中で起きた事故などに関してです。
従業員が故意に犯罪などを犯した場合は、当然従業員に法的な責任が追及されます。
例としては暴力や窃盗、嘘で信用を落としたり、会社の機密情報をバラして意図的に会社に損害を与えたようなパターンです。介護施設だと入所者に虐待を起こして逮捕される職員がこれまで何人もいました。
しかし今回のケースは違います。確かに介護をしていた職員に、介護業務をオペレーションを正しく守れず行った可能性は高いです。しかしそれだけをもってして使用者責任が無いとは言えないでしょう。
この施設の言い分はこうです。
自分達は「入浴介助中に目を離してはいけない」というルールを作っていた。
しかしこの職員はそれを守らなかった。だから事故の責任はこの職員にある
さて、このような言い分が果たしてまかり通るのでしょうか?
「入浴介助中に目を離してはいけない」というのはルールというより「なるべく目を離さないようにしながら業務を行いましょう」程度の意識づけ程度の話です。
なぜなら入浴介助中に1秒も目を離さない事など不可能だからです。
介護の現場は人手不足で非常に忙しいです。常に複数の業務を併行しながら行っているのが当たり前の状態です。
そのような中、職員や利用者から声を掛けられたりすれば?それを全く無視してずっと目を離さないなどできないのです。
実効性も無ければ、事故予防に効果もないルール。この程度のルールに違反したことを理由に職員に責任をなすりつけることなどできるはずがないのです。
世間や法曹界の人達の理解の無さ
・血圧の変動により急に意識を失う
・暑さにより脱水症状を起こして意識レベルが低下する
・皮膚が弱っている為、それほど高温のお湯でないのに火傷のような外傷が発生する
・急に動いて足元が濡れていたため滑って転倒
まとめ
現時点ではまだ書類送検。正式には「検察官送致」の段階です。この後は検察による取り調べが行われ、起訴するかどうかの判断になります。
仮にですが、検察官が起訴相当の事案であると判断すれば、職員個人の刑事裁判が始まる事になります。
裁判が開始されれば職員には相当不利になります。日本の裁判は検察に圧倒的に有利なのはご存知の通りですから。
今回の事件で職員個人に法的責任が負わされるような結果になれば、介護業界は崩壊しかねません。
安い給料で肉体的にも精神的にもキツイ仕事。そのうえわずかなミスで犯罪者扱いされかねない。一体誰がそんな仕事をやりたいと思うのか?
今回の事件、検察には冷静な判断をしてもらうことを願っています。そして世の中の多くの人に知ってもらいたいのは、今やるべきなのは介護現場で働いている人の些細なミスを責め立てる事ではなく、応援する事ではないでしょうか?
このような事件が増えれば働く人はいなくなります。つまり日本の重要インフラ、社会保障である医療や介護が崩壊するという事です。
自分達が将来受ける可能性のあるインフラを自ら壊す。その前に今この瞬間に、親の介護が必要になった時、介護や医療が受けられなくなった世界を想像してほしいです。
それで良いなら僕達最前線で働いている職員を責めればいいでしょう。しかしそうでないのであれば、過剰な理想や期待を一度捨ててほしい。そして介護や医療現場で起きる事故はある程度社会として許容していく寛容さが、今必要になってきているのです。