コロナの影響で介護や医療現場は今大変な状況になっています。僕達ケアマネジャーもそれは同じで、皆必死になって日々の仕事に取り組んでいると思います。
しかしその中で気になる事が増えてきたと感じます。それはコロナウイルス対策を優先しすぎるあまり、肝心の利用者や患者さんへの対応があまりにもおざなりになっている場面が多く見かけるようになった事です。
あなたはこんな場面を最近よく見かけませんか?
- マスクが苦しくて外してしまう高齢者に「なんでマスクを外すの!」と怒鳴る職員
- 面会制限されている施設入居者が「いつ家族と会えるのですか?」と尋ねても「知りません。今は世界中が大変な時なんだから我慢してください」と冷たく対応する職員
- 発熱や咳症状があるだけで「コロナなんじゃないか?」とすぐに考え、ケアを避けようとする職員
このように心無い対応をされる事が、まるで当たり前のような雰囲気になってきた事に危機感を感じています。
今回はそんな今だからこそ、ケアマネジャーはもちろん介護や看護師といった医療職、全ての職種に知ってもらいたい「バイスティックの7原則」について紹介したいと思います。
バイスティックの7原則とは?
バイスティックの7原則とは、アメリカの社会福祉学者のバイスティックさんが定義した相談援助技術の基本的な考えであり、それに基づいた行動規範です。
しかしこの考えは僕達のような相談援助職者だけのものではなく、介護や医療に携わる全ての人に共通してもっていてもらいたい内容になっています。
①個別化の原則
これはクライエントを安易にカテゴライズせず、「同じケースなど存在しない」と考える事が大事だよという内容です。
僕達はある程度経験を積んでくると
- 老夫婦で他に頼れる人はいないケース
- 認知症独居ケース
- KPがうつ病であんまり頼れないケース
こんな感じですぐ自分のパターンにクライエントをはめようとします。似たようなケースが有ることを完全否定するつもりはありませんが、内容が全く同じケースなど僕自身の経験からも振り返って1例も存在しませんでした。
この視点が欠けてしまうと、クライエントを正しく理解することができなくなってしまいます
②意図的な感情表現の原則
これはクライエント自身に「自由に自分の感情を表に出せるよう支援する」という事です。
例えば怒りや悲しみといったネガティブな感情はなかなか表に出すのはためらわれます。しかし本当に踏み込んだ支援をしようと思えば、まずは自分の感情を吐き出す事ができなければいけません。
皆さんも自分の本音を隠さないといけないような人とは、本当の意味で親しい関係になることはできませんよね?それと同じです。
「遠慮せずに、あなたが今感じている感情を私に言ってみてください」
相手に意図的に働きかけ、心の底に隠れている感情を出すことで浄化作用(カタルシス)も期待できます。
③統制された情緒的関与の原則
人は相手の感情に影響を受けやすい性質があります。それが強い感情であればある程影響力は強くなります。しかし支援者がクライエントの感情に振り回されて、冷静さを保てなければ質の高い仕事はこんなんでしょう。
そうならない為には、相手に自由に感情を吐き出させつつも、自分自身はその感情に影響を受けないような、メンタルのセルフコントロール能力が要求されます。
これを鍛えるためには様々な方法がありますが、一つ効果的なのが「自己覚知」です。自己覚知に関してはケアマネは定期的な自己覚知で、冷静な仕事ができるようにしよう!に詳しく書いてあるのでご参照ください。
④受容の原則
そのままですが、相手を否定せずに受け入れる姿勢を見せ続ける事が必要だという考えです。
僕達は自分を否定や拒絶しようとする人間と決して仲良くなりたい、「この人は信頼できる人だ」と思う事はできません。
しかし実際の現場でよく見るのはこの受容ができていない専門職が大勢いるということです。
「いきなり否定しない」
「まず受け入れる努力を全力でする」
こういった事を頭に入れて仕事をするだけでも、相手の反応が大きく変わってきます。
⑤非審判的態度の原則
僕達は意識しないでいると、なんでもかんでも自分の価値感で善悪のジャッジをしようとします。
「コロナで大変な今、そんな事を言うのは間違っている」
「なんでもっと頑張ってリハビリしようとしないの?だから弱ってしまうのよ」
こんな感じの言葉が僕の耳には日常茶飯事に聞こえてきます。皆さんはどうでしょうか?
ハッキリ言いますが、誰も他人に自分の事をジャッジしてほしいなんで思っていません。どれだけ話の内容が正論であったとしても、むしろ正論であればある程相手に対しての敵意が増していきます。これではとても信頼関係なんて作る事ができません。
僕達がやるべきことは相手をジャッジすることではありません。この事を頭に入れておきましょう。
⑥自己決定の原則
僕達の仕事は「クライエント自身が、自分の力で自分の問題を解決できるようにサポートする事」です。
ここを勘違いしている人が多く「自分がなんとかしなければ」と思っていると、思わぬ落とし穴にハマります。
支援者自身が出しゃばりすぎると、その人が自分の力で自分の人生の困難を解決する力を奪ってしまい、最終的には他者へ依存しないと生きていけないような不健全な状態を生み出してしまいます。これは相手から力を奪う行為であり、避けなければいけません。
その為に必要なのが「クライエント自身に、自分の事を決定してもらう」ということです。
これは「全部あなたの責任だからね。こっちは知らないよ」というような、歪んだ自己責任論を押し付けろという意味ではありません。難しいことはすぐに決めることはできないと思いますが、その中でもちゃんと自分で納得して選択できるようサポートすることが大事ということです。
選択の結果上手くいかない事もあるでしょう。しかしそれでもいいのです。僕達自身も全てにおいて順風満帆ではありませんよね。上手くいっていない事、抱えている問題もありながら人生を送っていると思います。
全ての問題がキレイに解決されることなど無いと理解できれば、支援者自身にも余裕ができ、クライエントの自己決定を支える事ができるようになってきます。
⑦秘密保持の原則
個人情報の保護が年々厳しさを増している昨今では、これは当たり前の考えです。
その為多くの専門職が自分はできていると思っているのですが、意外とクライエントの秘密を漏らしてしまっている事があります。例えば
- 不特定多数の人が聞こえるような場所で、クライエントの個人的な情報のやりとりをする
- 職場の同僚と外食をしながらお喋りしている時、クライエントの話をする
- SNS等で匿名のつもりでやっているが、結果的に見る人が見れば個人が特定できてしまうような内容の発信をしている
クライエントが自分の事を正直に話せるのは「この話は他の誰かに聞かれたりしない。秘密はちゃんと守られる」という大前提があるからです。逆に秘密が簡単に漏れてしまうような人に、本当の自分を正直に晒そうとは思いませんよね。
まとめ
バイスティックの7原則
②意図的な感情表現の原則
③統制された情緒的関与の原則
④受容の原則
⑤非審判的態度の原則
⑥自己決定の原則
⑦秘密保持の原則
忙しいとは文字通り「心を亡くす」事です。
「コロナで忙しくてそれどころではない」という人もいるかもしれませんが、今のような状況だからこそ原点に立ち返ってほしいのです。
「あなたの仕事は誰の、どんな人の役に立ち、喜んでもらえていますか?」
個人的に思うのは相手を傷つけるような対応や仕事をして、それで貰ったお金で食べるご飯はどれ程一流の食事であったとしてもヒドく不味い。逆に良い仕事をした後に食べるご飯は、海苔すら巻かれていない、具もないシンプルなおにぎりであったとしても最高においしいものです。
どんな仕事をするのがあなたにとって良いのか。このバイスティックの7原則がその役に立つことを願います。