様々あるBPSDでも対応が難しく、ネガティブな印象が多いのがこの「暴言・暴力」だと思います。今日はその対応をどうするべきかということについて紹介したいと思います。
何をもってして暴言・暴力かは人によって違う
一般的に介護現場における暴言・暴力というと「大声で怒鳴られた」「叩かれた」といった所でしょうか?では、少し例をあげて考えてみます。
(例)施設職員の介助に対して、拒否をして手を払いのける。職員の手をぶつ為暴力とします。その際利用者が
・か細く力のない女性利用者
・大柄で力のある男性利用者
そして職員が
・あまり力のない、比較的痩せた女性職員
・元ラガーマンの屈強な男性職員
この組み合わせだった場合どうでしょうか?屈強な男性職員であればどちらの利用者から手を払いのけられても暴力と考えないかもしれません。しかし女性職員の場合は、か細い女性職員の行為はそう捉えなくても、力のある男性利用者から払いのけられて痛みを感じるレベルであれば、その行為を「暴力」と考えるかもしれません。
つまり同じ行為であっても、受ける相手であったり、行う相手で異なる可能性が高いのがこの「暴言・暴力」なのです。
その為記録や申し送り、情報提供する時に安易に「この利用者は暴言・暴力があります」等とするのは情報発信者のバイアスで、利用者の本当の状態を理解させることを困難にするため使用しないほうがよいでしょう。
記録をする時は「入浴介助をしようと居室から誘導しようとした際に、「やめて」という言葉があり、職員の腕を力いっぱい掴む行為が見られた」のように事実を客観的に書くようにしましょう。
暴言・暴力には必ず発生理由がある
そもそもの前提として人は何も理由がないのに「暴言・暴力」を行うことはありません。皆さんが仮にそのような行為を行いそうになる衝動に駆られた時、そこには必ず理由があったはずです。そして理由の多くが「不快・不安」ではないでしょうか?
・職場の上司や先輩に「こんな仕事もできないのか」と言われた →自尊心を傷つけられた不快感から怒りを感じた
・夫がギャンブルにばかりお金を使って貯金をしようとしない →家計が崩壊するのではないかという不安から、その不安感を強める相手に怒りを感じた
他にも色々あると思いますが、人が暴言や暴力。つまり「怒りが形になる」その背景には不快や不安があることを理解しましょう。それができると、「暴言・暴力」と思われる行為が発生している理由が分かるようになってきます。
(例)
・「うるさい」と怒鳴った →聞こえているのに職員がわざわざ耳元で大声で話してくる。普段から子ども扱いするような言動をしている
・オムツ介助に対して「止めて」と言って手をつねってくる →寝ていたのに起きたら急にズボンを脱がされて下半身を露出させられようとして驚いた
・「言うこと聞かんとしばくぞ」等、常に強い口調で話す →元職人の親方であった。もしくは男尊女卑の価値観の強い家庭で長年上から目線で人に接してきた等個人の生活史が要因となっている
あくまで一例ですが、大事なのは「この人がこのような振る舞いをする理由は何なのだろうか?」と常に理由を考える姿勢が大事です。
また本当に特別な理由がなく急に大声を出したりする人もいます。そのような場合多くは薬の副作用が原因で起きています。一度主治医に相談し、難しい場合は精神科の専門医に診てもらい薬の調整をすることで改善することもあります。
暴言・暴力への対応方法
キーポイントは「相手の不快・不安感を取り除く。もしくは軽減する」ことを目指す事です。
・排泄介助や入浴介助を急にしない。少し世間話等をして、相手がリラックスしてから自然な形で介助をさせてほしいと伝える
・不安感が強くなっている人には、これから行うこと一つ一つ細かく声掛けして伝える。(「今から○○します」「次は△△まで移動してから○○します」等)
・相手に不快感を与えない言葉遣いや態度で接する。
この時気をつけたい言葉に「大丈夫ですか?」があります。皆さんも思い出してほしいのですが、この言葉を言われた時になんとなくイラッとしませんでしたか?
この「大丈夫ですか?」の言葉には「あなたはダメそうだから心配してあげてます」という恩着せがましいメッセージが秘められています。それを感情が鋭敏化している認知症の人は特に強く感じ取って不機嫌になることがあります。なので「大丈夫ですか?」ではなく、「どうしました?」「ひょっとして○○でしょうか?」等の言い回しに変えましょう。
まとめ
BPSD症状の一つ「暴言・暴力」の対応は
・暴言・暴力という言葉は人によって捉え方が異なる為、使わないようにする
・暴言・暴力は必ず発生理由がある為理由を考える
・対応のポイントは「相手の不快・不安感を取り除く。もしくは軽減する」
です。ただ真面目な人程「私が早くなんとかしなくちゃ」と解決を焦る傾向があります。しかし興奮などが強い時はすぐにはどうにもできない時もあります。そのような時は物理的・感情的な距離を取るのも一つの方法です。人間の瞬間的な怒りはそれ程長続きしない傾向がある為、時間が経って少し落ち着いてきた所で対応する人を変える、個人だけでなく複数のチームで対応する必要があります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。