先日このようなニュースがありました
ホームヘルパーの人材難が更に加速し、昨年度の有効求人倍率が過去最高の15.53倍にのぼったと報告。施設の介護職員などと比べても際立って厳しい現状を明らかにし、「人手不足が大きな課題」との認識を示した。
厚労省の調査結果によると、2021年10月時点でヘルパーの平均年齢は54.4歳。他の介護職員やケアマネジャーなど関係職種の中で最も高い。
また、ヘルパーの4人に1人、24.4%が65歳以上の高齢者。75歳以上も12.2%と1割を超えている。今後、引退するヘルパーの増加で人材不足が一段と加速していく懸念が強い。
この日の審議会では、多くの委員が来年4月の改定でできる限りの施策を講じるべきと主張。介護報酬の引き上げ、処遇の改善、負担の軽減などを求める声が相次いだ。
引用元:JOINT介護ニュース 一部抜粋
介護業界では以前から訪問介護のヘルパーの人手不足が大きな問題として、様々な人達から国に「なんとかしてくれ」と繰り返し提言されてきました。
しかし状況は変わらず、遂に有効求人倍率は過去最高を更新。
有効求人倍率15倍越えって事は、一人のヘルパーに対して15社以上が取り合いをする状況って事ですからね。
さらにすごいのがヘルパーの平均年齢。なんと54.4歳。会社員なら普通に定年が近い年齢です。
さらに65歳以上が約25%、75歳以上ですら10%越え。この年齢になると、自分が介護を受けてもおかしくない年齢です。
これは本当に深刻な状況です。ヘルパーという仕事のほとんどを高齢の人が支えているという事ですから。
どこかのタイミングで健康上の理由などから一気に大量の退職者が出る可能性がある。それがいつ起きてもおかしくない。そうなれば訪問介護というサービスそのものが急に崩壊する可能性がある。正に介護業界の南海トラフ地震並みのリスクです。
ではなぜこのような状況になっているのか?考えてみます。
ヘルパーが深刻な人手不足に陥っている理由
①収入が不安定
ヘルパーさんの仕事の仕組みとはこうです。
訪問介護事業所の責任者がお客さんからの仕事の依頼と、働くヘルパーさんのニーズをマッチング。結果
ヘルパーAさんは週に4日働く。1日3時間で3件訪問
みたいに仕事の計画が行われます。
ただし仕事のキャンセルが結構多いのです。
「ちょっと調子悪いから病院行くからキャンセルして」とか、「急に入院になったからキャンセル」などなど。
ヘルパーさんの仕事は時給制です。その為予定してた仕事が減るとそれに伴い収入も減ります。キャンセルが無ければ10万ぐらいの給料になる場合も、キャンセルで仕事が半分に減れば、給料も半減します。
そういう不安定な収益形態の為、一家の大黒柱として家計を支えていかなければいけない若い働き盛りの人に選ばれる事はまずありません。
その為必然的にヘルパーさんの仕事をされる方は、パートで隙間時間を活かしながら仕事をやりたいって方になります。
分かりやすく言えば、夫の収入が家計の柱。ただ夫の収入だけでは少し厳しい。でもなんとか生活できているけど、貯金を増やしたい、暇な時間を利用してお小遣いを稼ぎたい、といった年配の主婦の方がメインになります。
しかしそうであっても、予定した仕事がキャンセルになって本当なら10万ぐらい入ってたのに、キャンセルのせいで3万しか入らなかったってなったら辛いですよね。
②トラブルに巻き込まれやすい
ヘルパーさんの仕事はお家に行って、利用者と一対一の状況でサービスをする事が多いです。
そしてどうしても一対一という関係はトラブルになりやすいんです。
よくあるのが「ヘルパーさんに物を盗られた」など利用者に言われる事です。認知症のある利用者は特にこの手の訴えが多いです。
そして、ヘルパーさんが何もやってなくても自分の無罪を完全に証明するのは難しいです。
なぜならヘルパーさんの仕事は「家の中」という密室空間で行われているので、そこで行われている事が見えにくい特徴があるからです。
家族が理解がある人なら良いですが、そうではない人もたくさんいます。特に親が認知症である事を受け入れられていない場合は、親の言う事を疑いません。
うちの親がヘルパーさんにお金盗られたって言ってるんですが本当ですか?
こんな風に言われたら、何もしてなかったとしても強いストレスを感じてしまいます。しかしヘルパーさんの無実を完全に証明するのは難しい。ではどうするか?
この場合、本人や家族と話し合いを行いお金などの貴重品の保管方法などを話し合って決めていき、次に同じようなトラブルにならないようにするのが一般的な対応です。
つまり利用者、家族、ヘルパーさんそれぞれが「なんかスッキリしない状態」のままサービスの利用が継続されるというわけです。
これは辛いです。マジメに仕事をしているだけなのに、利用者や家族から泥棒みたいな目で見られ続ける可能性もあるわけですから。これがストレスで、その家の仕事には入れないとヘルパーさんが断る場合もあります。
人手不足の解消は根本的な仕組みを変える必要がある
ヘルパーさんの仕事は、在宅介護を支えるうえでは絶対に欠かせないものです。しかしこのままでは担い手がいなくなり、いずれ訪問介護のサービスを受ける事ができない事になるでしょう。
そうならない為にも、訪問介護の仕事が安定してできる仕組みに変える必要があります。
例えばですが収益に関しては、時給制ではなく月額定額制にする。
「それだと長く働く人と、短い労働時間の人で不平等になる」
この意見に関しては、週の労働時間で報酬ランクを3つくらいに分ける。例えばこんな感じです。
Bランク(20時間以上、30時間未満)→10万円
Cランク(10時間以上20時間未満)→6万円 ※10時間以下は、定額報酬無しで働いた時間に応じた報酬
()の時間はあくまでも仕事の計画時間です。つまりキャンセルが無ければ、これだけ働く事が決まっている時間です。
つまり結果として()より短い労働時間になる月もあるでしょう。しかしキャンセルの程度に関わらず、毎月きちんと一定の金額が支払われる事で、家計のやりくりがずっと楽にできるようになります。
またインセンティブボーナスとして、()の時間を超えた分は時給計算で給料がプラスされる。また負担の大きい訪問先の業務を引き受けた場合、痰吸引など高度なスキルが要求されるサービスを提供した場合なども別にインセンティブボーナスを受けられる。
このように一定の給与の支払いを担保しつつ、頑張れば頑張るほど給料が増える報酬の仕組みができる事が必要です。
「ヘルパーの仕事をしたい」
そう思ってもらえるためにも、このような報酬の仕組みが必要だと自分は思います。
またトラブル予防の為には、仕事中のヘルパーさんの視点を映すヘッドカメラをオンにして、何が行われているのか客観的に証明できるようにする事も必要です。
それはプライバシーの侵害になるのでは?
そう、現在はこの問題にぶつかるせいで踏み込んだ対応ができていません。これに関しては様々な権利や法律などのルールがぶつかり合う為、難しい事も事実です。
しかし、このまま放置する事でヘルパーさんのサービスを受けれなくなるほうが、全体として大きな損失に繋がるのではないでしょうか?
日本はどんな分野でも、お客側の権利が強く守られてきた文化があります。しかし、少子高齢化に歯止めが利かず、このままではあらゆるサービスが今のように受けれなくなります。
それを防ぐ為にも、僕達一人一人が少しの不自由さや不便さを受け入れる。今はそういうタイミングにきているのではないでしょうか?
まとめ
ヘルパーが深刻な人手不足に陥っている理由
人手不足の解消は根本的な仕組みを変える必要がある
現在国は外国人の技能実習や特定技能の制度を見直し、介護施設に限定していた就業先に訪問介護のヘルパーとしても働く事を解禁しようと検討しているようです。
もちろんそれも大事でしょう。しかしこの記事でいったような人手不足の根本的な理由が解決されない限り、一時凌ぎにしかなりません。
なぜなら外国人の人がヘルパーとして働いた結果「こんなコスパの悪い仕事やってられるか」ってなれば、結局人手不足状態に逆戻りするのが目に見えているからです。
国はこれまで軽く見ていた訪問介護への処遇。さらに言えば介護業界で働く人全員の処遇の見直し。これに対して真剣にやらなければ、日本の福祉の崩壊を招く危機的状況に陥っている事をどこまで理解しているのか?今後の経緯を見ていきたいと思います。