自己決定権の過剰な美化が招くリスク

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自己決定権の過剰な美化が招くリスク リスクマネジメント

あなたは仕事をしていてこのように思った経験はないだろうか?

 

本人の自己決定は確かに大事。でも受け入れられない事を言う人もある。一体どうしたらいいのか・・・

介護の世界で「自己決定」という言葉は、非常に大切にされています。僕も含めて、介護の仕事をしている人達はとにかく利用者の自己決定権を尊重するように徹底的に教育を受けてきた事もあるでしょう。


介護保険制度の理念にも「利用者の選択に基づくサービスの提供」が掲げられ、施設でも在宅でも「本人の意思を尊重すること」が強く意識されるようになりました。

けれど、現場で実際に支援していると、こんな場面に出くわすことがあります。

「それ、危険すぎる。でも本人が『やりたい』と言ってるし…止められないのか?」

「リスクがあるのはわかってる。でも“自己決定だから”と言われたら、それ以上言えない雰囲気…」

このようなどうしていいか分からない経験をしてモヤモヤした気持ちを抱えたままの人も多いはずです。

そこでこの記事ではそんな“自己決定のジレンマ”について、法的・倫理的な観点も交えながら、どう対応していけばよいのかを考えてみたいと思います。

自己決定には「限界」がある

まず大前提として、自己決定とは「好き勝手に何でもできる」という意味ではありません。
法的にも、倫理的にも、“限界”があります。

● 介護保険制度の原則

介護保険法では、

「利用者の選択に基づき、多様な事業者から適切なサービスが提供されること」

(介護保険法第2条)

が基本とされています。ですが、その「選択」は、「十分な情報提供と理解」によってはじめて意味を持つものです。

つまり、リスクを正しく知らずに下された選択は、自己決定とは言えないのです。

● 判断能力に問題がある場合は?

認知症などで判断能力が低下している場合、その選択が「法的に有効かどうか」が問題になることもあります。
成年後見制度などがその一例ですが、こうした制度の存在自体が、自己決定に“限界”があることを示しています。

● 専門職には「止める義務」がある場面も

介護職・ケアマネ・看護職など、専門職は「危険を予測し、回避する責任」があります。「安全配慮義務」とも言われる法的な責任です。
本人が「これでいい」と言っても、それが命や健康に重大な影響を及ぼすと判断すれば、「それでも止める」ことが求められる場面もあるのです。

自己決定の尊重が難しい事例

たとえばこんな感じの事例です。あなたはどう思いますか?

利用者本人のADLは脳梗塞後遺症もあり、日常生活の移動は車イスでなければと難しいレベル。

しかし本人は「リハビリで歩行練習もしているのだから歩ける」と、自宅での移動はあくまで歩行にこだわっている。
ただリハビリ専門職からも、歩行はあくまで訓練レベルであり、実用的に安全に行えるレベルではない事は評価、説明している。
入院中の病院でも、勝手に一人で歩こうとして転倒を繰り返している。そして退院後は以前と同じように自宅での一人暮らしを希望。

遠方に住む家族も「本人がそういうのなら仕方ありません」と言われる。

さて、この事例の場合。本人が自宅で一人暮らしを車イスも使わず歩行で行う事をそのまま何も考えず「本人の決定を尊重する」という大義名分で受け入れても良いのでしょうか?

このような本人の自己決定権の尊重と、安全の担保が両立しない、悩ましい事例は結構ありますよね。そこでこのような事例のポイントを考えてみました

自己決定権と安全の担保が両立しない事例の支援ポイント

1. 情報提供とリスクの説明

「あなたの希望は理解しますが、それを実行した場合こういう危険があります」と、分かりやすく丁寧に説明します。
口頭だけでなく、図や写真、他者の事例などを使うと効果的です。

2. 代替案を用意する

頭ごなしに「そんなの危険すぎるから無理です」否定する事に意味はありません。そう言われれば本人はさらに意地になって自分の主張を強硬に押し通そうとして逆効果です。

その為、本人の希望や思いに一定の理解を示しつつ、代替え案をいくつか用意して提案します。この時重要なのが、本人が本当のニーズを把握できているかどうか?です。

本人のニーズを満たす方法は、本人が言っている以外のやり方で実現できるのであれば、代替え案に対して受け入れてくれる可能性が高くなります

たとえばこの記事で示した事例の場合、

「なぜリスクがあるにも関わらず、本人は自宅で歩行する事にこだわるのか?」

この部分を深堀りしてアセスメントする必要があります。

・長年続けてきた習慣である散歩を止めたくないから
・車いすだと、好きな料理ができなくなると考えているから
・友人、知人を自宅に招いた時に車いすに座っている自分を見られたくないから

「自宅で歩行」というのは、本当のニーズではなく、あくまでニーズを満たすための手段である可能性が高い。そのような視点を持つことがヒントになる可能性があります。

3. チームで協議・記録を残す

仮に代替え案などの提案を受け入れてもらえなくても、その人の意思や背景、リスク対応は、ケアチームで共有し、記録として残すことが不可欠です。これは後々のトラブル回避にもつながります。

4. 家族と合意形成を図る

時には家族が「本人が望んでいるんだからいいじゃないか」と言ってくることもあります。
そんなときこそ、感情的にならず、家族にも何度も丁寧に説明を重ねることが大切です。

自分達ケアチームの方針や考え、代替え案。家族にも協力してもらいたい役割、などです。

理想は本人は強硬策を押し通そうとしても、家族にはリスクが高い方法である事を理解してもらう事です。

なぜならリスクの高い方法でケガや病気の悪化などの不利益な結果になった場合、訴訟や苦情を起こすのはほとんど家族だからです。しかしリスクが高い事を理解してもらっていれば、そのような事を回避できるからです。

しかし家族からの理解が得られない場合は、その事も含めて記録にしっかり残しておきましょう。

また地域包括支援センターなどの情報提供し、ブランチなどによる見守り支援を依頼したり、地域ケア会議に事例提出してリスクを地域として共有しておくのも良いかもしれません

「自己決定」とは、思考停止で言う通りにすることじゃない

「本人がそう言ったから」
「自己決定だから」

それが、支援者にとって都合の良い責任逃れの逃げ道になってしまってはいないでしょうか?

本当の自己決定とは、「情報を得たうえでの納得した選択」です。
時には専門職が「NO」と言うことも必要ですし、「どうすれば安全に実現できるか」を一緒に考えることこそ、私たちの仕事です。

“尊重”とは、ただ言われた通りにする事ではないと僕は考えています。
“寄り添いながら、守ること”でもあるのです。

このテーマに正解はありません。
でも「これは危険だ」と思ったとき、ただ黙って見ているだけでは、本当の意味でその人を大切にしているとは言えないと思うのです。

目の前の“選択”が、本当にその人の人生にとってプラスになるのか。
一緒に考え、悩み、対話すること。それが、介護のプロとしてできる最大の支援なのかもしれませんね

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