1月28日、また介護職員による高齢者虐待の事件が発生しました。
三重県伊勢市の特別養護老人ホームで、認知症の入所女性を床に投げ飛ばし、ケガをさせたとして、職員の女が逮捕されました。
逮捕されたのは、伊勢市村松町の特別養護老人ホーム「正邦苑静乾」の職員・堤有香子容疑者(24)です。
警察によりますと、堤容疑者は夜勤中だった26日午前4時半ごろ、入所者の女性(84)を床に投げ飛ばし、ケガをさせた疑いが持たれています。女性は右足の付け根の骨を折る重傷です。
女性のケガを不審に思った施設が館内の防犯カメラを確認したところ、2階のホールで堤容疑者が犯行に及ぶ様子が映っていたことから、施設が警察に届け出ていました。
女性は認知症で、調べに対し、堤容疑者は「女性が徘徊するのでイライラしてやった」と容疑を認めています。
引用:YAHOOニュースより
減るどころか増え続ける高齢者虐待。今回はなぜこのような事件が起きたのか、その原因を考察しようと思います。
介護職員による虐待が起きる原因
①職員教育ができていない
多くの介護事業者が抱えている問題は人材不足です。そしてそういった背景もあって、経験や能力がロクにない人材を雇ってすぐ現場に投入します。その結果下記のような現象が起きてしまいます。
・職員教育を現場に丸投げ
↓
・誰も教える余裕がない(人材教育のノウハウが無いため、教えても人が育たない)
↓
・雇われた職員は我流のやり方で仕事をこなし、無駄に経験だけが長くなる
この結果何が起きるか?利用者へのタメ口言葉が横行、介護サービスは素人レベル、認知症の人へのケアの知識も無いため不適切なケアが日常的に行われるようになります。
今回虐待事件を起こした職員も、認知症ケアに対しての理解がプロとして不足している事は疑いの余地がないです。
②職員個人の問題
今回事件を起こしたような職員は、実はどこにでも存在します。このような問題がある職員が作られる背景に組織レベル要因と、介護職員の多くが取り組めていない個人レベルの要因があります。
問題ある職員が作られる組織レベルの要因
今回事件を起こした職員は24歳女性。仮に介護の専門学校を20歳で卒業して新卒で入職したのであれば経験は約4年といった所で、多くの事業所では新人から中堅にランクアップしたくらいのポジションです。
このくらいの経験を積んだ職員の多くが、良くも悪くも仕事に慣れてきた頃です。そうすると必ず一定の割合で「自分のやっている事、考えている事は全て正しい」と思い込み、ロクに自己研鑽もしないのに自惚れる人が出てきます。
こういった職員は注意されると「そんな事言われるくらいなら辞めます」と強気の姿勢を示してきます。そして事業所としては人手不足という背景もあって、こう言われると強く注意できず放置状態になりやすいです。
そうなるとどうなるか?こういった人達が考えるのは
「誰も注意してこないということは、自分のやっている事はやっぱり正しいのだ」
困ったものでこのように考え、周囲の迷惑など顧みずやりたい放題になってしまいます。その結果虐待まがいのケアを日常的に行っているのに、誰も注意ができない最悪の状況が作られてしまいます。
今回事件を起こした職員は、ほぼ確実に日常的に虐待に該当するケアを行っていたと思われます。しかしこのような職員は、きちんと注意しない事業所が作り出した組織の責任とも言えます。
注意したくらいで辞めると言ってくる職員には辞めてもらえばいいのです。そのような職員を雇い続ければこのような事件を起こしてしまい、最終的に事業所は閉鎖に追い込まれてしまいます。幾ら人手不足でも、不適切な人材を使い続けるのは経営者にとってもリスクでしかないことを理解する必要があります。
問題ある職員が作られる個人レベルの要因
介護職というのは典型的な「感情労働」です。普通の仕事よりも感情的になりやすいと言えます。
その為感情労働に従事する人に必要なのは、自分が様々なストレスに対して、できるだけ冷静に仕事ができるよう感情のセルフコントロールの習得です。
例えばアンガーマネジメントを学び、自分の感情との向き合い方を日々の生活で実践していく。僕自身も自分の感情をコントロールできるよう毎日瞑想によるマインドフルネスを取り入れています。
ところが、介護職にはこのような考えを持っている人が少ないです。感情労働は自分の感情のコントロールに努める姿勢が無ければ質の高い仕事など絶対にできません。
しかし現実には、現場で感情的な態度や言葉で利用者に接する介護職員が多いです。今回事件を起こした職員も自分自身の感情がコントロールできていないのが、事件を起こした大きな原因になってしまっています。
③労働環境が整っていない
介護保険事業というのは、国が全てのサービスの報酬単価を決めてしまっている為、ハッキリ言ってあまり儲ける事ができない市場と言えます。
しかも、経費内訳で人件費が占める割合が他の事業よりも大きいという特徴があります。
その為少しでも収益を増やそうと、多くの事業所がなるべく少ない職員数でたくさんの利用者を受け入れようとします。
その結果、普通に考えたらほぼ無理な人員体制で経営を行っている所が多いのです。
さらに、そういった体制で経営している所は職員へのメンタルケアやストレスケアに対してあまり意識が向いてない事が多く、厚労省がやっているストレスチェック等も事務的にやっているだけで、積極的に自分達でストレス緩和を図ろうとしていません。
皆さんの事業所等にも口先だけ「職員の皆さんのお陰で施設が運営できています。今後も皆さんが働きやすい職場になるよう頑張っていこうと思います」等と美辞麗句を重ねている事業所の経営者っていませんか?
こういう人達や事業所は職員に対して負担を軽減するための方法を考えたり、ストレスを軽減するための方法を実行していません。
例えば頻繁に職員と面接をして、働きやすい労働環境を整える為に積極的にアクションを起こす。このような努力する姿勢が見えれば、職員も不満が完全に解消されなくても頑張って働いてくれる人がほとんどです。
残念ながら、それが分かっていない経営者が今回のような事件を起こしてしまうのです。
まとめ
今回のような介護職員による高齢者虐待が起きる原因は
①職員教育ができていない
②職員個人の問題
③労働環境が整っていない
僕はこのように考察しました。実際にはたくさんの原因が考えられますが、今回挙げた3つは特に大きな原因だと思います。
介護は良くも悪くも人材の質が、事業の結果に大きな影響を与える特徴があります。良い人材を獲得し、粘り強く育てる。そして働きやすい環境を整える努力を経営者も行う。このような姿勢が介護職員による虐待の予防には不可欠と言えるでしょう。