1月8日、東京商工リサーチが7日に公表したレポートによると介護事業者の倒産件数が過去最多を更新し111件という結果でした。
昨年の1年間に倒産した事業者は前年より5件多い111件。過去最多を記録した2017年と並んだ。100件を超えるのは4年連続。
深刻な人手不足、人件費の上昇、人材の確保も含めた競争の激化などが大きな要因とみられる。倒産する前に自ら廃業・撤退を決める事業者はさらに多い。地域の介護基盤が脆弱になれば、サービスを適切に受けられない“介護難民”が一段と増加する懸念がある。
今回のレポートによると、昨年の倒産は「訪問介護」が58件、デイサービスなどの「通所・短期入所」が32件、「有料老人ホーム」が11件、「その他」が10件だった。
前年と比べると、デイサービスや有料老人ホームは減っているが訪問介護が急増。ヘルパー不足を背景に13件(28.9%)多くなっていた。厚生労働省の統計では、訪問介護の事業所数が近年少しずつ減っていく傾向にあることも確認できる。
昨年に倒産した企業のほとんどは小規模、零細規模だ。資本金1000万円未満が全体の88.3%。また、職員5人未満のところが66.7%、10人未満のところが80.2%を占めている。
負債10億円以上の大型倒産は3件だった。この中には、有料老人ホームなどを展開していた株式会社未来設計(負債53億8600万円)も含まれている。
東京商工リサーチはレポートで、「過小資本の企業ほど人手不足が深刻さを増す悪循環に陥っている」「資金力の乏しい小規模事業者の淘汰が鮮明になっている」などと分析した。
あわせて、リーダー級の介護職員の賃金を引き上げる介護報酬の加算が昨年10月に新設されたことにも言及。「人材を確保できる事業所とそうでない事業所の格差拡大も危惧される」と指摘している。
引用:ケアマネタイムス
この記事の重要なポイントを挙げると
- 倒産件数111件は氷山の一角。自ら廃業や撤退した事業者はもっと多いことが予測される
- 事業種別に見ると訪問介護が1位、デイやショートが2位
- 規模で言えば小規模や零細事業者が全体の88.3%とほとんどを占める
では何故このような事業者が倒産することになるのかを考えてみたいと思います。
介護事業者が倒産する要因
①小規模事業所は従業員1人、事業に与える影響が大規模事業所より大きい
当たり前の話しではあるのですが、小規模の所と大規模の所では従業員1人あたりの事業運営に与える影響度は異なります。
分かりやすく考えると全く同じ能力の介護職員が100人いる所と、10人しかいない所では1人職員が辞めた場合の影響はどっちが大きいのか?答えは10人しかいない所ですよね。
実際には職員の個々の能力差があるため一概に言えない面はありますが、小規模の所だと1人辞めただけで急に仕事が回らなくなって、顧客のニーズに対応できず仕事を断らざるを得ない事はよくあります。
この辺りは人材への依存度が高い、介護事業のデメリットとも言えます。
②わずかな売り上げの減少が致命傷になりやすい
これも小規模事業所にありがちなのですが、少ない従業員が朝から晩まで多忙に働いて、限界までサービス提供してやっと収支がトントンというような状況があります。
しかしそんなギリギリの運営状況ではすぐに傾きます。
- 顧客である利用者が急な入院・長期入所、或いは他の事業所に替わってしまう
- 従業員が怪我や病気、その他人間関係等の理由で急に辞めてしまう
こんな理由で売り上げが一時的に落ちる事はよくあります。しかし上記のような経営状況に陥っている場合は一時的な売り上げ減に耐える経営体力がなく、それがそのまま倒産に繋がってしまうことがあります。
③人材を育てられない&定着しない
倒産する小規模や零細事業所の経営者の多くは「人材を育てる」という大事な視点が根本的に欠けている事が多いです。
元々建設業や飲食店等を経営していた人が、親戚などの身内に介護関係者がいた事と、介護事業ブームに乗っかろうとういう考えで起業したケースなどではそれが顕著です。
彼らの多くは「人材は使い捨ての資源」という発想です。元々自分達が得意としていた事業でそのようなやり方で経営していた為(繁忙期だけ日雇い労働者や短期アルバイトを多量に雇う)それを介護事業でも同じようにやろうとするのです。
しかし介護事業は人材の質が全てです。質の高い人材を集める事が最も重要な経営戦略であり、それができる事業所しか生き残る事はできません。
その為には自社で優秀な人材を育てる事が不可欠です。それをせず「優秀な人材は給料高めの求人で釣ればいい」と考えても、その方法で獲得することなど不可能です。仮に何かの間違いで優秀な人が入職したとしても、人材を育てる仕組みが整っていないようなレベルの低い事業所からは優秀な人材はすぐ見切りをつけて逃げていくでしょう。
人材が育たない所には、職員が定着せず入職しては退職してを繰り返してしまいます。その結果良質なサービス提供が行えず倒産するしかなくなります。
まとめ
小規模や零細の介護事業所が倒産する理由は
①小規模事業所は従業員1人辺りの、事業に与える影響が大規模事業所と比較すると大きい
②わずかな売り上げの減少が致命傷になりやすい
③人材を育てられない&定着しない
逆に考えると、小規模の事業所が生き残る為には
人材を育て、定着させる為の仕組みをしっかり作る
・中途採用ばかりせず、新卒から幹部職員を育て上げられる教育体制
・従業員の離職率をさげられるよう有休や時短勤務等の福利厚生を充実させる
・ICTの活用などにより、残業時間の短縮や質の高い業務が行える環境作り、等
大規模事業所がやっていないような、サービスを考え提供する
(例えばサービス提供時間外や、営業が休みの日に地域の人達に向けて事業所を開放して様々なイベントを行う。地域のモール等で無料相談会を実施する等)
人材の確保と、小規模事業所ならではの地域との繋がりの強さを生かしたニーズに応えるサービスの開発。これができれば小規模・零細事業所でも十分生き残れると思います。
今後の介護保険改正で、介護保険サービスをただ運営しているだけでは、今なんとかやっている所もいずれ厳しい状況に追い込まれるのは必至です。時代の変化に対応できる所だけが生き残ることになりそうです。