アセスメントができない!そんなケアマネは「7領域」を覚えよう
この記事ではアセスメントで集めた情報を、ICFモデルをベースにした7つの領域に分けて整理する方法についてまとめました。
しかしこのアセスメント手法はこれだけで終わりじゃありません。ここから集めた情報を基にケアプラン作成に繋げていくまでが、この手法の神髄です。
この記事では集めた情報の「分析・統合」とそこからケアプランの「目標設定・手立ての検討」までを説明していきます。
「7領域」情報の分析と統合
①ニーズとは何か?
まずは改めてケアプランに書かれている「ニーズ」とは何か?確認しておきましょう。
様々な文献などから直訳すると「問題状況」や「課題(目標)」となっています。
簡単に言えば「問題を解決する為に、クリアすべき課題や目標」といったところです。
例えば「筋力が低下して、家の中で転倒する事が増えている」(問題状況)に対して「筋力をつけて、転倒なく歩く事ができる」(課題・目標)といった感じです。
②生活場面ごとにニーズを整理する
実践では利用者が語る事は複数の要素が複雑に絡んでいる事が多いです。
一人暮らしは不安だけど、娘夫婦に迷惑をかけるわけにもいかないし。年金だって多くはないんだから、あんまりヘルパーさんにばかり来てもらうわけにもいかないのよね
こんな感じです。漠然とした不安感から、何をどうしていいか分からなくなっているのです。
そこでこの漠然とした不安感をまずは下記のような生活場面毎に整理していきます。
・入浴
・排泄
・家庭での役割(担っている家事など)
・趣味
・トイレに一人で言った時に、倒れたりこけたりして動けなくなったらどうすればいいの?
・買い物には毎日行きたいのに、それができなくなるのは辛い
③ニーズを分析・統合する
7領域毎に整理したニーズを分析、統合します。
なんでそんな事する必要があるの?7領域ごとのニーズにすればいいじゃん
こんな疑問もあると思います。しかしニーズというのは複数の要素が絡み合って構成されている為、7領域を中心に関連性の高いモノは統合して一つのニーズにする方が自然な形になります。
そこで統合のポイントはこの3つの領域にニーズを集約させる事です。
・「ADL、IADL(活動)」
・「役割(参加)」
目標設定、手立ての検討
目標設定の3原則
原則①利用者の目標である事
当たり前の事ですが、ケアプランの目標は利用者の為の目標である必要があります。
たまに援助者目線の目標設定になっているケアプランを見かけます。(例:3時間ごとに体位交換をして褥瘡を予防する)
まずは利用者自身が発した言葉を中心に、本人主体の目標を作る必要があります。
原則②達成可能な目標である事
目標はあくまで達成可能な内容である事が大事です。例えば幾ら本人が希望したからと言って、脳梗塞後遺症で重度の片麻痺が残った車いす生活をしている利用者の目標が「以前のように、一人で歩いて犬の散歩に行けるようになる」の場合、達成できる可能性がほぼない事が客観的に分かります。
達成不可能な目標は利用者自身に失望感を与えるだけでなく、周囲の支援者のモチベーションを損ねる結果になり、効果的な支援を阻害します。
達成不可能な目標の内容になった場合は、内容をダウンサイズするなど修正を行い、現実的に達成可能な内容にします。
原則③評価可能な目標である事
目標は評価可能な内容にする事。これがとても大事です。
ダメな例が「活気ある生活が送れるようになる」みたいなやつです。一体何をもってして「活気がある生活」と評価できるのか?これでは目標の進捗状況が不明で、空中分解するのが目に見えてます。
誰の目から見ても、同じように評価できる内容である必要があります。そこでポイントになるのが、目標を「ADL、IADL」「役割」等に落とし込む事です。例えば
「見守りを受けながら、自分でトイレで排泄ができる」
「ヘルパーなどに手伝ってもらいながら、一緒に料理を作る」
このような内容であれば評価が行いやすくなります。
また健康状態に関する目標であれば、より具体的な内容にすることができます。
「血糖値は200以下にコントロールできる」
「朝の薬だけは忘れる事なく内服できる」
このような内容にすれば評価しやすいですね。
目標達成に必要な「手立て」を検討する
①手立てを導くのは中心ニーズから
手立て(支援内容)は設定した目標を達成する事を念頭に置きながら、生活に落とし込まれた「中心ニーズ」を起点に作成していきます。
②時系列に沿って手立てを検討する
これはどういう事か?例えば入浴ですが、いきなり裸になってお湯に入るわけではありませんよね。
細かく見て行けば、ちゃんとした手順があるはずです。それを時系列に沿ってまとめるという事です。
(例)入浴
②血圧を測定する(140以下なら入浴可能)
③服を脱ぐ(麻痺側の右半身は介助してもらう)
④浴室内ではシャワーチェアーに座る
⑤洗髪、洗身はデキる所は自分で行う。手が届かない場所(足先や背中など)は介助してもらう
このように支援内容をまとめます。
③分かりやすく表現する
支援内容にありがちな表現がこのようなワードになります。
・排泄介助
・歩行を強化する為のリハビリ
・いつ
・どこで
・何を
・どのように(具体的な内容)
・5/1~7/31まで週3回(いつ)
・〇〇整形外科(どこで)
・歩行能力を向上する為のリハビリ(何を)
・固定型歩行器を使った歩行練習(50m×2~3回)、段差の昇降動作練習(どのように)
事例をもとに実際にやってみよう
では、このアセスメント手法を実際の事例をもとに使ってみましょう。
模擬事例
Aさん(女性、84歳)要介護2。83歳の夫と同居。長女が市内に暮らしている。
4人姉妹の長女。25歳の時に夫と結婚した。
ほがらかな性格で、専業主婦として家計を支えてきた。家事が得意で、その中でも特に料理をするのが好きで家族においしいモノを食べさせる事に喜びを感じていた。
5年ほど前から認知症の症状が出始める。最近は同じ事を繰り返し質問したり、日常生活も一つ一つ細かく確認や指示がないとできなくなってきた。その頃から自然と家事をする事がなくなり、家でジッと過ごす事が多くなった。精神科を受診した結果、アルツハイマー型認知症と診断を受ける。
健康状態としては高血圧があるため、降圧剤(アムロジン)を内服。また認知症の進行を抑える為にAD薬(レミニール)が処方されている。下肢筋力も低下傾向だが、どうにか自宅内であれば歩いてトイレまでは見守りで行ける状態。
放っておくとボーッと1日中部屋で過ごしてしまい、食事も水分も摂らず、トイレも行かない為失禁してしまう。去年の夏には脱水を起こし体調を崩した事もある。
同居の夫は狭心症の持病と体力の低下がある。不慣れながらAさんの介護をしているが、細かな事に毎日のように介護が必要な為負担が強くなっている。長女が定期的に自宅に訪問してサポートもしているが、仕事もしている為十分な事ができず、介護保険の利用の相談に至った。
Aさんは「いつも家事や料理を作るのに毎日忙しい。夫は家の事は何もしないから、全部私がしないといけないのよ」と言われる。(今でも本人は、専業主婦として忙しく家族を支えてきた時代を生きている様子)
夫も長女も、これまで過程を支えてくれたAさんに感謝している。その為これからもできるだけ家で看てあげたい気持ちが強い。その一方で、今のままでは負担が強すぎて限界を感じており、どうしていいか分からないと言われる。
①7領域ごとにニーズを整理し、分析・統合してみよう
領域①利用者の語り
情報
「いつも家事や料理を作るのに毎日忙しい。夫は家の事は何もしないから、全部私がしないといけないのよ」
ニーズ
・利用者が語る言葉も大切にしながら、そこには表現されない非言語(表情や態度など)からもニーズを読み取り代弁できるようにする
領域②健康(疾患)
情報
既往歴:アルツハイマー型認知症、高血圧、脱水
処方薬:アムロジン、レミニール
ニーズ
・脱水の予防
・認知症の進行防止
・薬の副作用に注意する(目まい、吐き気、食欲不振など)
・様々な合併症を引き起こす可能性のある、高血圧のコントロールを行う必要がある
・処方されている薬の主な副作用を把握しておくことで、症状が出た時に速やかに対応が可能になる
領域③心身機能、身体構造
情報
・認知症の周辺症状として無気力状態(アパシー)になっている
・歩行能力の低下など、身体機能の廃用が見られる
ニーズ
・下肢筋力を向上させ、歩行状態を改善させる
・メインのニーズである「買い物や料理」を行う為にも、心身の機能改善が必要になる
領域④ADL・IADL(活動)
情報
・同じ話を繰り返す。日常生活は細かな指示が必要
・1日中自宅内で過ごしている
・屋内歩行はなんとかできるが見守りが必要
ニーズ
・家事、特に料理の再開
・Aさんは認知症により、リハビリの必要性を理解するのは困難。その為本人が意欲的にできる家事、特に料理を中心に機能改善を進めていく
領域⑤役割(参加)
情報
・現在の役割はなし(今後「妻」としてできる役割を模索する)
ニーズ
・夫と一緒に料理の為の食材を選ぶ
・手伝ってもらいながら料理をする
・Aさんの語りをもとに、「家族の為に料理をする」という役割を取り戻す事で、生活の意欲を取り戻せる可能性が高い
領域⑥環境
情報
・家族(夫、長女)
・近所にスーパーがある
・介護保険制度
ニーズ
・近所のスーパーに行く
・訪問介護の利用
・夫の抱える阻害的な部分(持病や体力の低下)に対しては、家族の仲の良さ(人的環境)、近所にスーパーがある(物的環境)、訪問介護の利用(制度的環境)といったポシティブな環境で支援を行う
領域⑦個性、生活史
情報
・4人姉妹の長女。25歳で今の夫と結婚
・ほがらかな性格で、料理が得意だった
ニーズ
・認知症が進行していても、昔得意だった事はできる事が多く、それは利用者の強み(ストレングス)になる
②7領域のニーズを統合する
7領域ごとに分析したニーズをつなぎ合わせて、ニーズの相互作用を確認していくのが「統合」のプロセスです。
ここでは「中心ニーズ」と「背景ニーズ」に7領域を分けます。
生命保護の観点から「健康」の領域はどんな場合でも中心ニーズになります。
一方で「ADL・IADL(活動)」と「役割」は検討する生活場面によってどちらかが中心となります。
今回の場合、Aさんの妻の役割を中心に支援を組み立てていくのが良さそうです。その為「役割」を中心ニーズに、それ以外の領域は「背景ニーズ」にします。
③具体的な目標と手立てを検討する
目標
しかし本人の語りから、今も昔と同じように「家族の為に家庭を支える妻」である世界に生きている事が分かる。
その本人の生きる世界を実現する為に、役割を中心に据えた目標にした。
手立て①買い物に出かける前に血圧測定する。160/100以上なら中止
・現在降圧剤(アムロジピン)によって、正常範囲にコントロールされている。しかしたまに急上昇する時もある。主治医に確認した結果、160/100以上であれば、運動や入浴などは中止するように指示があった
・その結果、買い物の前にも血圧を測定し、普段より高い数値が出た時は中止にする
手立て②夫(長女)の見守りの元、一緒に歩いてスーパーまで行って買い物する
・そのため安全にスーパーまでの移動ができるよう、仲の良い家族である夫や長女(人的環境)を活用する
・自分で食材を選んで購入するという行為には、残存の認知機能の活用と、主体的な活動により生活を活性化させる支援に繋がる
手立て③買い物から帰ったら、コップ1杯のお茶を飲んでもらう
・高血圧の既往もあり、脱水状態を放置すると脳梗塞や心筋梗塞などの重大な病気に繋がるリスクがある為、予防できるようにする
手立て④料理はヘルパーや長女と相談しながら作る。Aさんが「できる料理」を見つけ出し、「している料理」に高めていく
・料理はIADL(活動)であり、料理をする事で心身機能の改善も期待できる