認知症の人に限らないかもしれませんが、介助者が負担を感じる一つにこの夜眠れずトイレなどに何度も起きてくるという行動があります。介助者がその度に起きて対応しないといけないような事が続けば、在宅であれば継続して生活することが困難になります。
また施設であっても限られた夜勤の人員体制で毎回対応に追われては、職員も疲弊し本来行うべきケアができなくなる問題を抱えています。そこで今回は夜眠れず何度も起きてくる人への対応方法をご紹介します。
夜寝れない=昼夜逆転ではない
夜眠れない人と言われた時、真っ先に思いつくのが「この人は昼夜逆転なのか?」ということです。ちなみに昼夜逆転とは認定調査ではこのように定義づけられています。
ここでいう「昼夜の逆転がある」行動とは、夜間に何度も目覚めることがあり、そのために疲労や眠気があり日中に活動できない、もしくは昼と夜の生活が逆転し、通常、日中行われる行為を夜間行っているなどの状況をいう。
夜眠れずにその影響で日中ほとんどの時間を寝て過ごしている。もしくは日中起きていても、夜間帯に普通の人が日中にやるような行動をしていると昼夜逆転となるそうです。特に「日中ほとんど寝てて、夜間がっつり起きている」が一番分かりやすい昼夜逆転と言えそうです。
この場合だとまず真っ先に取り組まれるのが本人の生活リズムの改善。日中の活動量、つまり起きて過ごせる時間を少しずつ増やして夜間帯に眠れる時間を増やしていくという対応です。
しかし、実際色々な認知症の人を観ているとこんな分かりやすい昼夜逆転状態にある人ばかりではありません。日中多少眠そうにしている事もあるが、ほとんどの時間は起きている。なのに夜あまり寝ていない人も大勢います。なので安易に「夜眠れない=昼夜逆転」と考えるのは違うということです。
誰にとっての困り事なのか?
在宅での介助者でも、施設の夜勤職員でも夜間に起きてくると「また起きてきたよ。困ったな・・・」とすぐに考えませんか?しかしこの思考パターンが夜間眠れない利用者への適切な対応をする事を阻害している可能性があります。
・介護者が自分の困りごととして考えた場合
「夜間に起きられたら対応が大変」→「とにかく寝てもらわないと」
これは利用者が眠れない事に対して、介護者が自分の困り事して捉えた場合です。この場合望ましい結果は「利用者が寝る」一択に限定されてしまい、結果として対応の幅が狭くなってしまいます。
・寝れない事が利用者自身の困り事として考える場合
「寝たくても眠れくて困っている」→「どうして眠れないんだろう?」
先程の介助者側ではなく、利用者自身の困り事として捉えた場合は、眠れない理由を考える時に「利用者が寝る以外の選択肢」もあるため、多くの理由が思いつきます。大事なのは「眠れない事は介護者でなく、利用者の困り事として捉える視点」です。
夜眠れず起きてくる理由
・日中に寝ている時間が長く、夜寝付けない
・頻尿(トイレに行きたい感覚を頻繁に感じてしまう)
・日中にイライラすることがあって眠れない
・枕や布団、マットレスなどの硬さや感触が合わずに眠れない
・部屋の温度や湿度、ニオイ、周囲の音等環境的な理由
・喉が乾いて眠れない
・心配事(通帳の保管場所、家に帰る、息子が明日来るのかどうか思い出せない、等)
・眠剤の効きが悪く、途中で目覚めてしまう
・これまで早起きの習慣があって、早く目が覚める
眠れない人の対応方法
①日中の過ごし方の検討
おそらくこれがすぐに思い浮かぶ対応だと思います。ところが「日中起きているのに、夜間寝てくれない」と言う人も多いです。そして、その日中の過ごし方をよく確認すると「日中ただベッドに寝ていないだけ。車椅子などに座って起きているだけ」という状態です。
その間利用者はどうしているのか?ウトウトしていたり、やることもないのに起こされるので寝かせてくれと言うと「夜眠れなくなるので起きていてください」と言われ、不愉快なので自分で戻ろうとすると無理に連れ戻されイライラする。これがタイトルにも書いた日中に起きて過ごすだけでは無意味と言った理由です。大事なのは「起きてどのように過ごすか」です。
皆さんもやることもないのに、朝から寝るまで同じ場所でジッと座って過ごせますか?そんな事ができる人はほとんどいないし、仮にできても心身ともにかなり憂鬱な気分になり、その日いい睡眠はとれないでしょう。
逆に楽しかったり、誰かに必要とされてやりがいある仕事ができた日はどうでしょうか?1日がとても早く過ぎたように感じるし、いい疲労感からぐっすり眠れる経験があると思います。これは認知症で眠れない利用者も同じことが言えるのです。
利用者の生活歴ややってきた仕事などから、その人が充実感ある日中の過ごし方を検討することが必要です。
②良い睡眠がとれる環境になっているか?
皆さんも夏に蒸し暑かったり、冬に寒すぎる部屋ではなかなか眠れない経験があると思います。それは認知症の高齢者でも全く一緒です。温度や湿度が適切なのか確認しましょう。もし不適切であればエアコン等で調整します。
また音や明るさも検討してください。施設などでナースコールの音や職員の声などで眠れず起きてくる人もいます。また多床室などで、隣の人のオムツ交換介助をするときの音や、照明で起きてしまうこともあります。
また寝る直前までTVや携帯電話などの操作をしていると脳が興奮してなかなか寝付けないという検証データは多くあります。そのような習慣がある人は、寝る1時間くらい前には見ないようにすることで、眠りやすくなるかもしれません。
ニオイも確認しましょう。他人のもですが、自分の尿臭や便匂い、汗の匂い、部屋のカビ臭い匂いなどで眠れないのかもしれません。不快なニオイを取り除く事と同時に、可能であればラベンダーのアロマオイル等、リラックス効果を引き出す匂いを感じれる環境にすることも効果的です。
③健康状態の影響
多いのは頻尿で度々起きてしまうことです。この頻用は膀胱炎や過活動膀胱など、直接的な泌尿器の疾患が原因で起きている場合は泌尿器科の受診などで、症状が緩和すれば眠りやすくなります。
ただ、泌尿器の疾患以外の場合も多くあります。「目が覚めたので、とりあえずトイレに行こう」と考え、それ程トイレに行きたい感覚でなくてもトイレに起きてくる人もいます。この場合はまとまった時間睡眠が取れなくなっていることが要因です。上記に書いた生活や環境を見直しても眠れない場合は、医師に相談し眠剤を内服することも効果があります。
しかし眠剤を内服しても、眠れない人もいます。それは個々人によって薬の効きに差があることと、睡眠障害の種類に適した眠剤が処方されていない場合が考えられます。薬を処方してもらう時は、本人の睡眠パターン(なかなか眠れないのか、寝てもすぐに繰り返し起きるのか。それは何時頃なのか?早い時間に目覚めてしまって、それから眠れないのか?等)をできるだけ詳しく伝えるようにしましょう
眠れない人の対応のポイント
一言で言うと「無理に寝かせようとしない」です。
本人は眠れなくて困っているのに、その人に対して「寝てください」と言って寝かせようとするのは、その人の困り事に対応しようとしていないのと同じです。逆にこの対応によって利用者のイライラが増して、余計に眠れなくなっている可能性すらあります。
眠れないケースでよくある落とし穴に
・入眠時間が早すぎる
・若い頃の睡眠時間にこだわりすぎている
・その人の睡眠リズムを理解していない
というものがあります。例えば施設だと21時には就寝する所が多いですが、これまでは0時前後に寝ていた人からすれば当然すぐには眠れません。
そして、そんな早い時間に寝るものだから夜中の2~3時くらいに目が覚めて、それで眠れなくなる人もいます。高齢者は若い人に比べると熟睡できる時間が短いです。なのに「7~8時間は眠らないと」等、睡眠時間にこだわりすぎると「この人は早期覚醒する睡眠障害がある」等と、睡眠障害ではないのに薬が処方されたりしておかしな事になってしまいます。
また若い時に仕事の都合で早く寝て、早く起きる生活をずっと続けてきた人ならどうでしょう。19時就寝→2時覚醒。これは睡眠障害なのでしょうか?本人が熟睡できていて、眠気もないのであればこれがその人の睡眠リズムになります。そのリズムを無理に変えないケアを考えるほうが、お互いにとって無理のない生活が送れます。
またよく起きてくる人に対して介護者は「またトイレで起きてきたよ」等毎回同じ理由で起きると考えやすいですが、これは違います。実は夜中に起きてくる理由は1回1回異なる可能性があります。その都度起きてきた理由を確認し、それに合った対応をすることが重要です。
まとめ
夜眠れず起きてくる人の対応のポイントは
・介助者でなく、利用者の困り事として捉える
・眠れない理由を見つける事と、それを解消すること
・対応のする時は無理に寝かそうとしない事
です。夜間の睡眠がしっかりできるかどうかは、利用者・介助者ともに健康で豊かな生活が送れるかどうか。とても影響が大きい部分です。夜眠れなくて困っている人がいれば是非参考にしてみてください。