この記事はこんな人の役に立ちます
・ケアマネジャー
・認知症の利用者の支援をしている
・認知症の利用者の支援だけでも大変なのに、その家族がさらに困った事をする為支援が上手くいかない。ケアマネとしてこのような家族とどう関わっていけばいいのか分からない
ケアマネをやっていると、認知症の高齢者が最近増えてきたと感じませんか?そしてそれは間違っていません。
2020年の65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%、つまり65歳以上の6人に1人程度が認知症を発症しています。
さらに厚労省が示しているデータでは、要介護認定を受けている高齢者の6割は認知症(認知症日常生活自立度がⅡ以上)とも言われてます。
この事からも、利用者の半分以上は認知症がある事前提で支援をしないといけないのです。
この時本人以上に大変な事があります。それが認知症の利用者の家族の存在です。
この記事を読んでくれているケアマネのあなた、過去にこんな事で困った事はありませんか?
・家族が認知症を受け入れる事ができず、「なんでこんな事もできないの!」といつも本人に怒鳴る
・認知症で何も分からなくなったと決めつけ、本人の意向を無視して自分の希望だけを押し付けてくる
・「認知症=徘徊する」と考える。徘徊など1度も起きていないのに「一人で外に出たら危ないから」と、自分が外出する時は部屋や家の鍵をかけてしまう
ケアマネになった人であれば、認知症ケアについても深く学んできた人も多いです。その為本人のケアをどうすればいいのかは知っている人がほとんどです。
しかし、認知症の利用者の家族に対してどのように対応すればいいのか。きちんと理解しているケアマネはどれだけいるのでしょうか?
自分のやりたいケアも、家族の対応が上手くできないと協力が得られないだけでなく、最悪の場合は妨害されて上手くいきません。その結果、本人の認知症の症状が急激に悪化し、自宅で生活することができなくなる可能性があります。
ではどうすればいいか?答えは「認知症の利用者の家族の支援について正しい知識を身に着ける」事です。
そこで今回は僕が定期購読している月刊ケアマネジャー2022年1月号から、認知症の人の家族支援について、大切なポイントをギュッとまとめて内容を紹介します。
この記事の参考書籍
認知症の家族支援6ステップ
認知症ケアのスタートのほとんどは家族からの相談です。そして家族も現状に戸惑い、不安を抱えている状態です。
まずは家族の状況に目を向けなければ本人の支援をスムーズに行う事ができません。しかし何をどうしていいか分かっていいなければそれもできないのです。
そこで本書では家族を支援するプロセスを6つのステップで行う事を示しています。
必ずしもこの通りになるわけではないですが、基本的な流れを理解しながら支援するかどうかでは天と地ほどの差がでますので頑張って理解していきましょう。
ステップ①家族から話を聞き、状況を把握する
家族から困りごとや状況を丁寧に聞き取り、何が起きているのか?その原因としてどのような事が考えられるのか整理します。
ステップ②家族の思いを受け止める
家族は自分達なりに現状に対応しようとしています。しかしケアマネに相談に来たからには、何か上手くいかない事があるという事です。
家族に病気や精神疾患、障害などがあったり、生活に困窮している場合は家族自身が支援を必要としている時もあります。まずはそうした家族の思いに耳を傾け、受け止める事で本音を話しやすくなります。
ステップ③家族に認知症への理解を促す
家族の話から利用者の状態や、認知症の特性などについて家族と情報を共有します。
家族の状況にも配慮しながら、丁寧に認知症への理解を促進する事で支援に非協力的であった家族が協力的に変化する事もあります。
ステップ④家族と一緒に利用者との関り方を検討する
本人と会う前に家族から相談を受けた場合、初回訪問時のケアマネの印象は大事です。ここで「嫌な事をする人」と覚えられると支援が上手くいきません。
本人の性格や生活歴などを踏まえながら、どのようにして本人と接するのがいいか家族と検討します。
ステップ⑤本人の思いを聞きとる
ステップ④で検討した関わり方を行いながら、本人との関係を築いていきます。
いきなり「デイに行きましょう」等、サービスの話をするのではなく、まずは信頼関係を築く事を大事にします。
場合によっては繰り返し訪問し、会う回数を増やすなど長期的な視点も必要です。
ステップ⑥確認した内容をチームで共有する
ステップ①~⑤までで確認した内容をケアプランに落とし込み、家族を含む支援チームで必要な情報を共有します。
気になる事、心配している事(火の元の取り扱い、薬の飲み忘れ、一人で外に出たら、等)が起こった時にどのように対応すれば良いかも、先に決めて共有しておくことで家族が安心して本人の支援に取り組めます。
6ステップを使った支援の具体例
では、実際に6ステップを使った支援を具体例から考えていきます。
事例
認知症があり、独居のAさん(81歳、女性)は何かあると、近くに住む長女に電話をかけている。
しかし、最近になって「預けたかばんはどこにいったのか?」と夜中にも電話が入るようになった。長女が思わず「さっきも言ったでしょう」と言うと、Aさんに大声で怒鳴られてしまい、怖くなった長女は電話に出なくなった。
相談されたケアマネは「親御さんの事なので娘さんに協力してほしい」と伝えたが、長女は「電話にはもう出たくありません」と話すばかりで、ケアマネは困ってしまった。
この事例は家族に支援をお願いしても断られるというケースです。
認知症ケアではこのようなケースはよくありますよね。このようなケースに対してどのように支援を進めていけば良いのか?まずはポイントを押さえてみましょう。
①なぜ本人は長女に頻繁に電話をしてしまうのか?
⇒大切なモノがどこにあるのか分からなくなる=不安感が強くなり、それを解消する為に長女に電話をしている
②なぜ長女は関りを拒否するのか?
⇒混乱状態の本人に対してどうしていいか分からない、繰り返し同じ訴えをする本人に強いストレスを感じている。長女にとって本人の電話に出る事が不快な状態になっている
③ではどうすればいいのか?
本人と長女。お互いの関りが不安やストレスなどの不快な感情を減らし、安心して関われる土台を作る
まずはこのように事例の重要と思われる部分を幾つかピックアップし、その背景要因などを簡単にまとめてみます。このポイントをベースに、先程紹介した6ステップで支援を進めてみましょう。
ステップ①状況を把握する
電話がどのくらいの頻度で、どの時間帯に多いのかを確認してみるとその傾向が見えてきます。加えて本人からどのような事を相談されるのかも確認します。
このような状況を確認する事で、時間帯によるメンタルの影響なのか、本人がどのような心理状況にあるのか、などを推察することができます。
ステップ②家族の思いを受容する
このような頻繁に電話してくる場合は、本人も不安からイライラを家族にぶつけてくる事が多いです。
そのような対応を毎日繰り返しする事を想像してみてください。幾ら自分の親とは言え、負担の重さは半端ではないですよね。
まずは家族の負担感に対して理解を示す事が大切です。
ステップ③認知症への理解を促す
本人の頻回な電話は、背景に認知症による認知機能低下の影響が考えられる事。そのような情報を家族と共有する事で本人への理解が進み、現状に応じた支援内容について話し合う事ができるようになります。
(例:記憶力低下により、数分前の事を忘れてしまう。不安から、一番頼れる人に助けを求めている。決してあなたを苦しめようと、嫌がらせをしているわけではない事などを伝える)
ステップ④本人の支援を検討
頻回な電話の背景にある「モノが無くなって困る」という状況を解消するため、モノの管理方法を見直します。
よく紛失するモノをピックアップして、紛失しにくくする方法を考えたり、本人が保管した場所がすぐ分かるような方法を考えます。
紛失すると本当に困るモノ(通帳類、大事な書類など)は本人の同意を得て家族が持ち帰って保管するなどの方法もあります。
ステップ⑤本人の思いを受容する
「家族とばかり話す」
このような理由でケアマネを変えてほしいという利用者は多い。この事実をケアマネとして知っておく必要があります。
僕達の仕事は本人と良い関係が築けるかどうかが大きなカギを握っています。まずは本人の思いを否定せず、「どうすればいいか一緒に考えていきましょう」と粘り強く伝えていく事が大切です。
ステップ⑥支援方法をチームで共有する
チームで本人と家族の状況を共有したうえで、具体的な手立てを考えます。
例えば「かばんの収納位置はヘルパーが訪問時に確認する」など、本人の困りごとに対してそれぞれの専門職がとれる対応を考えます。
また家族に認知症という病気への理解をしてもらうために、医療職から説明してもらう機会を作るなどが考えられます。
まとめ
認知症の家族支援6ステップ
ステップ①家族から話を聞き、状況を把握する
ステップ②家族の思いを受け止める
ステップ③家族に認知症への理解を促す
ステップ④家族と一緒に利用者との関り方を検討する
ステップ⑤本人の思いを聞き取る
ステップ⑥確認した内容をチームで共有する
今回は家族支援の為のプロセスを6つの段階に分けて行う考え方について紹介させてもらいました。
実際にはこの通りにならない事もあるし、飛ばしたりほぼ同時に行うプロセスもあります。
ただ、まずはこの6ステップを意識して支援を進めてみる。やっていくうちに自分なりにアレンジしていく。そのようなやり方がオススメです。
認知症の家族の支援に悩んでいる人の参考になれば幸いです。
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