「徘徊」
これはBPSDで最も多くの関心が集まる症状になっています。社会的にも徘徊による行方不明者への対応を、地域ぐるみで取り組んでいる所も増えてきました。そして、僕も利用者の家族等からこんな話を度々聞きます。
「認知症って、家に帰るとか言って、どこに行くか分からなくなったりするんでしょう」
こういう声を現実に多く聞いているとまだまだ一般の人は「認知症=徘徊」と考えている人もいると感じます。そしてその言葉の背景には「そんな風にうちの親がなったらどうしよう」という不安があるようです。
その不安は支援をするケアマネも同じで、「徘徊する利用者へどう対応したら良いか分からない」という人も多くいます。そして適切な支援方法が分からないまま、家族の要望ばかりに対応し続けた結果、在宅での生活が困難な程症状が進行したり、最悪行方不明になる事があります。
今回はそんな徘徊が起きる原因と対応をどうすればよいのか紹介します。
徘徊する理由は至って普通
皆さんは「食材がないから、今からスーパーに買物に行こう」等と、何かしら理由があって行動しますよね。徘徊する認知症の人もそれは同じです。
「ちょっと用事を思い出したから、家に帰ろう」等と考え行動しています。しかし多くの人は「徘徊する人」と一度定義づけてしまうと、「目的もなくウロウロする人」と誤った認識をもっています。
徘徊する認知証の人を理解しようとする時は「徘徊はごく普通の理由が背景にある」という風にまずは理解をし直してください
理由があるのに、ウロウロと歩き回ってしまう理由
①記憶障害や見当識障害の影響
認知証の中核症状の一つである記憶障害と見当識障害。これによって起きるのが
・目的の場所までの道のりが分からなくなってしまう
・自宅にいるのに帰宅しようとする。現在いるのが自宅だと分からなくなっている見当識障害
・デイサービス等にいる時、なぜここにいるのか分からなくなって、不安からその場所を離れようと思った
・仕事をしていた時の記憶が残っており、今も仕事に行かなければと早朝から職場に行こうとして出ていく
・前頭側頭型認知症の影響。この認知証の大きな特徴に「常同行動」というのがあります。これはその行為を行うのが適切かどうかは関係なく、同じ行動を繰り返すことです。この行動の一環として徘徊をしている可能性もあります。
②不安やストレスから逃れる為
何かしらの要因で本人に強い不安やストレスがかかり、それから逃れる為に徘徊している可能性があります。
・引っ越し後の新しい家や環境になじめず、前の家に戻ろうとする
・息子など、同居している家族にに叱られたことが不安や怒り等、不快な記憶として残りその場所から逃れようとする
・家族がちょっとの間と思い本人を置いて外出。本人は急に誰もいなくなった事に不安を覚え、家族を探しに出かける
・デイサービスや病院など、慣れない場所や知らない人達の中で過ごす事にストレスを感じ、とりあえずどこか落ち着く場所に移動しようとする
このような理由が考えられます。徘徊が始まった時に本人がストレスを感じるような要因がなかったか考えてみましょう。
徘徊行動を減らす方法
①怒らない
なかなか難しいことですが、「怒らないこと」はとても大事です。
徘徊する人に限りませんが、認知証の人は 怒られた内容は忘れてしまっても、そのときに感じた嫌な気持ちは残っています。それによって「ここにいると嫌な思いをする」「ここは自分がいるべき場所ではない」という認識につながり、安心できる場所を求めてさらに徘徊を続ける可能性があります。
何度も徘徊を繰り返されると、「いい加減にして。何回言ったら分かるの」等と言ってしまいやすいですが、かえって徘徊行動が加速してしまいます。そのような時は怒るのではなく「どこに行こうとしていたの」「どうしてそこに行こうと思ったの」等、落ち着いて理由を尋ねてみてください。はっきりと答えられないかもしれませんが、「この人は自分の味方なんだ」と感じてもらえれば、それだけで本人の安心感がまし、徘徊行動が減少する可能性があります。
②他のことに気をそらす
これは徘徊が始まりそうな人に対して行うよくある対応で、結構効果的です。
例えば、「家に帰る」と言って外に出ようとしたときには「帰る前にトイレに行っておきましょうか」と声をかけてトイレに誘導したり、「ちょっと力を貸してほしいことがあるのですが」等、何かの作業を手伝ってもらう、等です。
他のことに気がそれているうちに、どこかへ行こうとしていたこと自体を忘れてしまえば、しばらく徘徊することはないでしょう。
③一緒に外に出る
これができる時はなるべく無理に止めようとせず、介助者が一緒に本人と出かけてみましょう。実は歩いているうちに本人も「なぜ歩いているのか」忘れることも多いのです。
外出して歩くことで徘徊の原因となった不安やストレスが軽減します。そして表情が和らいだ頃を見計らい、「きれいだねえ」と一緒に季節の花を見たり、喫茶店に寄ってみたりして、本人にとって「楽しい時間」を過ごせると効果的です。
また、一緒に外に出ると、ご本人が迷いやすい場所、立ち寄りやすいところ、休憩する場所、等どのように普段歩いているのか傾向が分かります。そうやっておおよその徘徊経路を把握しておきましょう
徘徊の現実的な予防と対応方法
①徘徊センサーの利用
センサーのスイッチを入れていると、玄関を人が通ると音で知らせてくれるセンサーがあります。このような道具の利用は効果的です。
「そんな面倒な事しなくても、玄関や家の窓の鍵をしておけばいいのでは」と思う人がいるかもしれません。しかしこの対応は本人の不安感やストレスを増大させ、かえって症状を進行させる対応です。過去にケアマネがヘルパーや家族と協力して、徘徊がある人を家に鍵をして閉じ込め状態にして問題になった事例があります。そうならない為にも、鍵をして閉じ込めるのは絶対にダメです。
②GPS端末を活用する
GPSとは、人工衛星を利用して、地球上のどんな場所にいても現在地を正確に知ることができるシステムで、最近のスマホ等携帯電話などには標準装備されています。
被介護者にGPS機能のついた端末を持たせれば、目を離したすきに姿が見えなくなっても、すぐに位置を把握することができます。
本人が持つことを嫌がる場合は、本人がいつも持っているバッグなどの中にあらかじめ入れておく、抵抗がないならネックレスのように首からぶら下げる、歩行器や杖を使う場合はそこに付けておくと良いでしょう。
③服や持ち物に名札をつけておく
よく着る服や持ち物、靴の内側などに、名前と連絡先を記したカードをつけておくと、自分で氏名や住所が言えなくても、徘徊の途中で保護されたときに家まで送り届けてもらえる可能性が高まります。
目立たないところに縫いつけても良いですし、差し支えなければ接着剤で貼りつけても良いでしょう。
④地域の色々な人達に協力してもらう
いろいろと対策を施しても外に出てしまった場合、やはり頼れるのは地域の力です。どのような人達に力を借りるのか
・民生委員
・自治会の役員
・近所の人
・地域の認知症サポーター
・交番
・近くのコンビニや、昔からあるお店
・地域包括支援センター、社協、ブランチなどの協力機関
こういった人達にあらかじめ顔写真や歩きそうな場所等の情報提供をしておきましょう。そして連絡先を互いに交換しておき、いざという時(ないに越したことはないのですが)は一緒に探索を頼めるようにしておくことが必要です。
この時初動対応は早ければ早いほど見つかりやすいです。逆に時間がかかってしまうと、想定されるエリアから本人が出てしまい探し出すのが困難になります。家族などは「おおげさにしたくない。恥ずかしい」という思いがあって、なかなか相談できずに結果として長期間行方不明、そして最悪の結果になることがあります。ケアマネとして事前に「もし、居場所が分からなくなった時の対応をどうするか」はしっかり具体的な手順まで関係者で話し合い、決めておくことが大事です。
まとめ
今回は徘徊する人の対応などについて紹介させていただきました。まとめると
こんな感じです。是非参考にしてみてください。