住環境整備、今回は「居室」です。
居室は在宅で生活する利用者さんが多くの時間を過ごす、場合によっては24時間ここ以外では過ごさない人もいるくらい重要な場所です。
移動手段と段差の解消
①移動手段
まずは居室内での移動手段の検討が必要です。
歩ける場合の選択肢は「手すりや壁の伝い歩き」「杖」「歩行器」といったところが選択肢になります。
これも本人の能力と住環境でどのようにしていくか考える必要があります。
居室の中にタンスなど伝って歩ける物がある場合はそれを利用します。もしそれが難しいのなら杖や歩行器の使用を考えたいところです。歩行器は段差がある場合が多いため、車輪がついているものよりは固定型と呼ばれる、杖のようにして使う物が実用性が高くなる傾向にあります。
住宅改修で手すりを取り付ける事ができれば良いですが、動線上全てに取り付けるのは難しく、居室の空間の中に取り付けは難しい事があります。その場合はレンタルで連結型の手すりがあるためそれを使用します。
次に床面の検討です。
畳などの場合は歩く時に滑ったりして転倒しやすいです。そのためまず考えるのは床材の変更です。
床材を畳からフローリングなどに変更。これは住宅改修で保険が適用される工事になります。ただし、結構金額がかかるため本当にそこまでしないといけないのかは慎重に考えましょう。
最近はホームセンターなどで、畳の上から敷くだけでフローリングのような床にする素材もあります。また畳の上に履物を履くことに抵抗感があって難しいことも多いのですが、滑り止め機能付きのルームシューズを履いて歩くことも転倒のリスクを下げる対策になります。
履物が難しい場合は靴下そのものに滑り止め機能がついた物もありますので、それを利用するのも良いでしょう。
段差の解消
段差の解消も考える必要があります。
段差はまず古い日本家屋にある出入り口の2~3cmの段差です。住宅改修による工事でこの段差を除去することもできますが、これはホームセンター等にある三角スロープでも解消は可能です。レンタルでの対応もできます。
次にカーペットやコンセントなどの段差(バリア)の除去です。コンセントに関しては、利用者の動線を妨げるような位置にある場合は別の位置から配線できないか考える必要があります。加えて余計な配線はテープで固定するなどしておくと良いでしょう。
カーペットを何枚も敷いている場合があります。可能であれば、一枚の大きなカーペットに変えて段差の解消を図る手もあります。「もったいない」と言われるかもしれませんが、このわずか数ミリの段差につまずいて転倒する人が後を絶ちません。リスクを説明し、転倒予防の為の先行投資だと考えてもらえないかアプローチしてみましょう。
寝具の選定
どんな寝具を使って寝るか、それは転倒予防や利用者のQOLに大きな影響があります。
どうしても僕達ケアマネは安易に「とりあえずベッド」と考えやすいです。しかし長年床に布団を敷いて寝てきた人はベッドになるとなかなか眠れなかったり、不慣れなうちは起居動作の感覚が掴めず、転倒のリスクがかえって高くなる傾向があります。
能力的に可能であり、利用者がまだ床で寝ることに希望が強い場合はその環境でいかに安全に過ごせるか考えてみましょう。起き上がりが難しくなっている場合は、床布団用の据え置き手すりもレンタルが可能です。
ベッドが必要と思われる方でも、即介護ベッドを導入するかどうかは検討が必要です。
介護ベッドは物によりますが、大体1,000円/月程度のレンタル料です。1年レンタルすると1万円を超えます。
しかし、折りたたみベッド等簡易なベッドに据え置きの手すりを取り付ける程度で安全に過ごせる方であればそれもで良いと思います。簡易ベッドなら中古で購入ができれば数千円ですし、手すりのレンタルは200~300円/月(1割負担)ですので、コストは安く済みます。
介護ベッドを導入する基準としては、介護ベッドの機能が必要かどうかです。
介護ベッドの機能として①頭部の角度調整 ②高さ調整 ③下肢の角度調整 ④L字バー
これらの機能が生活支援に必要かどうかで判断すれば良いと思います。僕は特に高さ調整は重要で、本人の身体に合った高さにベッドが調整されるだけで、介助の必要なく自分でスムーズな起居動作ができるようになる人は大勢います。リハや福祉用具事業所等の人にその人に合った高さを調整してもらいましょう。
ポータブルトイレの必要性
居室で過ごす場合。よく導入されるのが「ポータブルトイレ」(以下Pトイレ)です。
ただ、Pトイレを導入する前に「本当に家のトイレに行けないのか」をしっかり検討してほしいと思います。というのも、この検討をしっかりしないまま「危ないんでPトイレにしましょう」とケアマネなどの専門職主導で簡単に導入されているケースが多いからです。
皆さんも想像してください。自分の寝室のベッドの側にトイレがある状態を。そこで排泄してもすぐに中身を片付けてもらえるわけではありません。さらに排泄中、同居の家族が勝手に部屋に入ってくるかもしれません。或いは上手くできず汚してしまうかもしれません。
もちろん最近のPトイレは高機能な物が多く、脱臭機能や消臭剤などで匂いを抑えることはできます。しかし居室にPトイレを置いている方はほとんどの時間を、下手をすれば食事まで居室でします。
そんな状況。僕達健常者が行うとすれば、それは刑務所の囚人になった時くらいです。排泄というのは人にとって本来とてもデリケートな行為です。その為Pトイレを長時間居室に置かれるというのは僕達が想像している以上に、利用者や家族にストレスになることもあります。
例えばですが、居室をトイレの近くに変える。日中は付添いが難しいのであれば、デイサービスなどを利用し、行かない日のみPトイレを置いておく。普段は寝る前にトイレに行き、朝までに行きたくなった場合のみ使えるように設置しておくなど、使用の機会をなるべく減らせるケアプランを考えることも必要になります。
またPトイレを使用する場合は、中身の片付けも結構重要な要素です。誰がどのタイミングで片付けるのかもあらかじめ考えてから導入しましょう。
まとめ
居室の住環境整備のポイントは
①移動手段や段差の解消
②寝具の選定
③Pトイレの導入は慎重に
です。住環境整備の際の参考にしてみてください。