新人ケアマネの人からよくこんな質問をされます。
モニタリング訪問しようと思った利用者が突然入院しました。
訪問できなかったのですが、これでも減算になるのですか?
居宅のケアマネにとって必須業務の一つが毎月のモニタリングですよね。しかし様々な事情でできない事があるのもまた事実です。
そして訪問できなかったら厳しい減算があるのも周知の事実です。今日は、モニタリングが減算になるルールやその対処法について解説します。
モニタリングのルールについて
まずモニタリングに関するルールで運営基準減算になる要件は次の通りです。
居宅サービス計画の実施状況の把握(モニタリング)に当たり「特段の事情」なく、次のいずれかに該当した場合
①月に1回、利用者の居宅を訪問し、利用者に面接していない場合
②モニタリングの結果を記録していない状態が1ヶ月以上継続した場合
特段の事情がなく、月に1回利用者の自宅を訪問して利用者に面接ができなければ減算になってしまいます。
ちなみに減算の内容がこちらです。
・運営基準の内容を 1 か月以上、未実施の場合 :所定単位数に 50/100 を乗じた単位数
・運営基準減算が 2 か月以上継続している場合 :所定単位数算定なし
1ヶ月で支援費が即半分カット。2ヶ月目で0です。これは絶対に避けないといかないのは分かりますね。
ではここに書かれている特段の事情とはどういう内容なのでしょうか?
「特段の事情」とは、利用者の事情により、利用者の居宅を訪問し、利用者に面接することができない場合を主として指すものであり、介護支援専門員に起因する事情は含まれない。
さらに、当該特段の事情がある場合については、その具体的内容を記録しておく必要がある。
引用:「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」
ケアマネ側の都合ではなく、あくまで利用者側の都合というのが大前提です。
特段の事情に該当するような理由であれば、記録に残しておけば運営基準減算を免除されるということです。
各保険者ごとによって解釈が異なる事もありますが、主な特段の事情は以下のような場合です。
- 利用者の居宅を訪問すれば本人と家族の関係が悪化すると客観的に認められる場合
- 利用者が緊急で入院,あるいは緊急で短期入所サービスを利用することになったために,利用者の居宅でモニタリングが出来なかった場合
- 地震・風水害や火災により利用者の居宅が被災したために,利用者の居宅でモニタリングが出来なかった場合
- 主介護者である家族の病気などの理由により、ショートステイの利用が長期的に続いている場合
こういった場合は特段の事情として認められます。逆にこのような場合は認められません。
担当のケアマネがインフルエンザに罹患し、5日間出勤停止になり今月中のモニタリング面接が予定通りできなくなった。
一見認められそうですが、これはあくまでケアマネ側の都合です。こういった場合は管理者と相談し、代わりのケアマネが訪問するなど対応する必要があります。
ただし、一人事業所のケアマネの場合は特別に認められるかもしれません。(代替手段が他にない為)一度保険者に相談してみると良いでしょう。
つまりタイトルに書いたケースの結論を言えば利用者が突然入院してモニタリングができなかった場合は、特段の事情に該当する為、自宅を訪問して面接ができなくてもOKということになります。
ただし、予定入院であった場合は別です。「分かっていたのだから、面接行けたでしょ?」という解釈になります。入院する前に一度訪問しておきましょう。
ここまで読んでくれた人はモニタリングの大体のルールは理解できたと思いますが、実際に判断に迷うグレーケースがあると思います。
寝たきりの利用者を介護している家族。その為モニタリングのアポイントは主介護者の嫁と行うのだが、仕事がほぼ毎日のようにあり、休みは日曜日のみ。平日であれば訪問は19時以降になるが疲れているのでそれは止めてほしいとの意向。
当時勤めていた事業所の営業は月~土曜の8:30~17:30。日・祝日は休み
これは僕が担当していたケースの内容です。当時僕は管理者だったので、月に1回だけ休みの日の日曜日に訪問させてもらっていました。しかし休日出勤の手当等は管理者ということもあって出ていない状態でした。
この場合、適切なのは休日出勤を認めてモニタリング業務にかかった時間だけは職員に手当を支給するのが良いと思います。時間にすれば30分~1時間程度です。その程度の手当は経営判断として支払っても、減算によるマイナスよりは遥かにマシです。
しかし、一方でこういう方ばかりになると職員の負担が増し、事業所としても手当の支払いが増えて収益的に厳しいのも事実です。
そこで契約時にモニタリングに関する話し合いを具体的に詰めておくのも一つの方法です。
- 月に1回必ず自宅を訪問して、本人に面接する必要があること。
- そのアポイントの連絡は誰に対して行えば良いか?(本人で良いのなら、家族が不在時に訪問しても良いか?)
- 家族が不在時に訪問した場合、別途電話などでの連絡や報告を希望するか?
- 家族がいるときに訪問を希望する場合、曜日や時間帯の希望はあるか?
この辺りですね。特に家族が立ち会いを希望する場合は重要です。その時にこちらの通常の営業時間帯に面接ができないと言われる場合もあります。しかしここであっさり引いては今後ずっと相手の都合の良いタイミングでモニタリングをやらねばならず、それは最終的にはお互いに良い関係を築くのが難しくなります。
そこで最初に交渉をします。以下のような内容の交渉が必要です。
- 月に1回の為、どうにか時間を作る事はできないのか?
- 無理だったとしても、こちらが訪問できる時間帯に時間ができた場合は教えてほしい(そこで訪問することが前提)
- 毎月は無理でも2、3ヶ月に1回は時間が作れないか?
僕達がやっているのは慈善事業ではなく、収益も考えながらやらなければいけません。収益度外視でやる仕事はただのボランティアであり、事業ではありません。
こちらの利益に全くならないのであれば、そもそも依頼を受ける必要は通常のビジネスではありません。しかしケアマネの場合正当な理由なく依頼を断れないという困ったルールがあります。(個人的にはこれも十分正当な理由だと主張したい)
そこで、全くモニタリングに協力しない人達に対して実践で使える裏技的知識についても紹介します。
モニタリングの裏技的知識
①サービス提供場面に同席し、玄関先でも良いので本人と会う
居宅支援をしているからには、何かしらのサービスを利用しているはずです。それを利用してモニタリングで別にアポを取るのが難しいケースはサービス提供場面に同席しちゃいましょう。
- 訪問系 → 「サービス提供が問題なくできているか確認」という理由で訪問
- デイやショートステイ → 「送迎の際の出入りや準備が問題なくできているか確認」という理由で訪問
- 福祉用具 → 「福祉用具が劣化等していないか、福祉用具専門員と協力しながら確認している」という理由で訪問
「ケアマネが何しに来るんですか?」と言ってくる人には上記のように堂々と、しかも分かりやすい理由を伝えましょう。
そしてモニタリングルールで思い出してほしいポイントがあるのですが、
月に1回、利用者の居宅を訪問し、利用者に面接
これです。この「居宅」という言葉ですが、国語辞典ではこう書かれています。
日常住んでいる家。住まい
これはつまり解釈次第では
1歩でも利用者の暮らしている建物に入れば、それは居宅とみなすこともできる
ということです。極論を言えば、送迎などのサービス提供場面で玄関先で利用者と会って短い会話をするだけでもモニタリングの最低要件は満たしていると言えるのです。
もちろん、そんな内容をいつまでも続けることが適切であると言ってるわけではありません。
自宅の中に入り、利用者が多くの時間を過ごす場所の確認や歩行などの動作確認。薬の管理や内服がきちんとできているかなど見るべきポイントを直接確認してモニタリングは成立します。
その為それができるよう改善に向けたアクションは起こし、それを記録に残す必要はあるでしょう。
しかし。ここで僕が主張したいのは客観的に見て、ケアマネ側から積極的にモニタリングをする意思とアクションが明白であるにも関わらず、利用者や家族側の不適切な理由でできなかった場合に減算にするな!ということです。
この辺りは国にも真剣に考えてもらわないといけません。でなければケアマネの仕事でご飯を食べていくのはますます難しくなっていき、最終的には担い手がいなくなってしまいます。
②モニタリングに協力する義務がある事を協調する
皆さんはこちらの条文をご存知でしょうか?
「国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする」
引用:介護保険法第4条(国民の努力及び義務)
これは介護保険法に書かれた国民の義務です。
ケアマネジメントは適切な保健医療及び福祉サービスを利用する為に必要不可欠であり、またここに書かれている福祉サービスの一つとも言えます。
つまりこういうことです。
全ての利用者や家族は適切なケアマネジメントによるサービスを受けて、その有する能力の維持・向上に務める義務がある以上、モニタリングにも協力する義務がある
これは決して誇大解釈ではないと思います。国がこの条文を作った背景には、自ら積極的に予防に努める義務を課すことで不要な社会保障費の拡大を抑えたいというものです。
であれば、介護予防をより効果的にするケアマネジメントを拒否する事はその目的に反する行為です。厳しい言い方をすれば、モニタリングを拒否する事は法に示された義務を果たしていないと言えます。
モニタリングに対して「忙しいのに、なんでそんなものに時間を割かないといけないのか?」こんな理由で非協力的な人には、この条文を根拠に義務であることを説明する事も効果的です。特に一番最初の契約時に説明しておけば、多くの人はなんとか時間を作る等協力してくれます。是非活用してみてください。
まとめ
・モニタリングは特段の事情なく、利用者に居宅での面接をできなかった場合に減算になる
・特段の事情はケアマネ側の都合は認められないが、利用者側の都合であれば認めらられるものもある
・利用者の急な入院でモニタリングができなかった場合は、特段の事情に該当するので面接できなくても減算にならない
・契約時にモニタリングの必要性を説明し、時間を作ってもらえるように交渉する
・裏技的知識として
①アポ取れないならサービス提供場面に同席する
②モニタリングに協力する法的義務がある事を説明する
モニタリングはケアマネの大事な業務です。しかし普通にやっていると、自宅で面接が困難なケースも実際にあると思います。
そこで「できませんでした」と簡単に諦めて、安い報酬で仕事をしてほしくないと僕は思います。
他の仕事はちゃんとやっているのに、自宅で面接できなかったくらいで報酬が半分や0?冗談じゃありません。
ケアマネの仕事は現在の報酬の倍はもらっていいと僕は思っています。自分達の仕事の価値を高めていく為にも、安請け合いな仕事は止めるべきです。
不適切な理由でモニタリングを拒否する利用者や家族とはそもそも契約しないし、契約後にやってきた場合は介護保険法義務違反で契約解除でもいいと思います。
これからの仕事のスタンダードは
「客が利用するサービスや店を選ぶ権利があるのと同じように、サービス提供側にもお客を選ぶ権利がある」
多くの業界でこのようにシフトしていきます。僕達介護業界にも、このようなスタンスが普通になるよう自分達の考えを積極的に発信して、ルールそのものを変えていく。そんな姿勢で仕事をしていきたいと思います。
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