ケアマネをやっている方ならほぼ全員が必ず通る道、それがタイトルにも書いた「お茶菓子問題」でしょう。
これは何かと言うと
「利用者の自宅訪問時などに、利用者や家族からお茶やお菓子を勧められた。或いは利用者が亡くなった後などに、お世話になったお礼等と言って菓子箱を贈られてどうしていいか分からない」
とりあえずこんな感じて定義してみます。この問題は本当にケアマネにとって永遠に頭を悩ませている問題で、スッキリとした明確な答えがないまま時間が経過しているように思います。
そこで、この問題を一度きちんと整理し、結局どうするのが良いのかを真剣に考察してみたいと思います。
そもそもなんでお茶菓子もらっちゃダメなの?
この問いに対するエビデンスとして日本介護支援専門員協会が定めている倫理綱領
この中の4項にこう書かれています。
(公正・中立な立場の堅持)
4.私たち介護支援専門員は、利用者の利益を最優先に活動を行い、所属する事業所・施設の利益に偏ることなく、公正・中立な立場を堅持します。
この公正・中立な立場を守ることについて介護保険法第69条にも書かれています。
介護支援専門員は、その担当する要介護者等の人格を尊重し、常に当該要介護者等の立場に立って、当該要介護者等に提供される居宅サービス、地域密着型サービス、施設サービス、介護予防サービス又は地域密着型介護予防サービスが特定の種類又は特定の事業者若しくは施設に不当に偏ることのないよう、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない
この2つをエビデンスとした結論として
「介護支援専門員(ケアマネ)は公正・中立の立場を守らなければならない。そのためには利用者や家族、サービス事業所などから金品の授与を受けてはならない」
直接は書かれていませんが、上記のような内容で多くのケアマネが理解していると思います。だから利用者や家族が出してくるお茶菓子を断る必要があるのです。
つまり、この問題に対する答えは
「利用者や家族からは、わずかなお茶もお菓子ももらってはならない」
これが完璧な模範解答です。しかし、現実には簡単にそうできないからこそ、この問題は長らくケアマネの頭を悩ませています。
問題の構図について
この問題でケアマネの頭を悩ませるポイントを挙げると
①断っても出し続けてくる
②断ると怒られて、関係性が悪くなる
③断るのに精神的エネルギーを消耗する
④かといって、受け取るのも罪悪感でストレスかかる
おそらくこの辺りがケアマネの頭を悩ませる部分です。特に①と②は本当に多く「私のお茶が飲めないのか!!」みたいに怒られると、仕方なく口をつける人もいるのではないかと思います。
なぜ、利用者や家族は断ってもお茶菓子をケアマネに出してしまうのか。その構図は
「日本人の客人に対する礼儀・価値観」VS「ケアマネの倫理感」
だと僕は思います。どういうことか?
日本人は昔から家に客人を招く時、客人をもてなす為家をキレイに掃除し、そしてお茶菓子を振る舞うという慣習があります。これは日本人の客人に対する「礼儀」であり、おもてなしをするべきという「価値観」を強く持っているからだと思います。(東京オリンピックに招致したときのキーワードが「お・も・て・な・し」だったことからも分かることです)
そして客人は「おかまいなく」と一度は表面上断るが、家主から「遠慮なさらずにどうぞ」という言葉をいただいてから礼を言って、お茶菓子等をいただくという一連の流れが暗黙の了解で出来上がっています。
なので、本当に断るというのは招いた側からすると、この流れをぶち壊す行為にあたります。その結果客人の行為を無礼と感じ「せっかく手間暇かけて用意したものを本当に断るというのか」と怒ってしまうのです。
この独特の礼儀・価値観と、ケアマネの倫理観が相容れない状況にあるためこのような問題が起きてしまうのです。
では、どうすればよいのでしょうか?
対策・対応方法
①契約時に金品・お茶菓子等が受け取れない事を明確に説明しておく
最初の対策としてまずこれだと思います。契約時に明確に金品はもちろん、お茶菓子も一切受け取れない事を相手に伝えてください。
その際なぜ受け取れないのかも分かりやすく伝えましょう。
またケアマネは利用者や家族の伴奏者やパートナーシップに基づいて仕事をさせていただく専門職であって、決して「お客」ではないことも説明が必要です。
今後どうなるかは分かりませんが、この記事を書いている時点ではケアマネの支援を受けるのに利用者負担は0円です。その為、「これだけよくしてもらって、お金も支払っていないなんて。何かお礼がしたい」という気持ちに利用者や家族はなってしまいやすいです。
しかしケアマネは利用者からお金をもらっていないだけで、ちゃんと公費で報酬をもらっていることを説明しましょう。決してボランティアでしているわけではないことを理解してもらえれば、お茶菓子を出したいという思いも少なくなる可能性があります。
②その都度、繰り返し断る
最初に説明していても、繰り返しお茶菓子を出してくる人もいます。そのような時も契約時に説明したような事を繰り返し伝えて断ってください。
このお茶菓子ですが、一度受け取ると結局ずっと続きます。そうなると、その都度ケアマネは「受け取れないの分かっているが、断れず受け取ってしまった・・・」と毎回無駄なストレスを感じながら仕事をすることになってしまいます。
なので、断り文句を最初に何か考えておいてください。例えばですが
ちなみにこれ、僕がよく使う断り文句です。利用者や家族に真摯に向き合おうとする姿勢が本物であるならば、それは相手にも伝わります。その相手からこのような言葉を言われれば、大抵の人は理解してもらえます。
③どうしても断れず、受け取ってしまった場合は管理者や経営責任者に相談
最後はこの対応になると思います。ケアマネが個人レベルで対応できれば良いですが、なかなか頑固な人もいます。そのような場合は一度受け取った後、事業所の責任者レベルに相談してください。
その後、利用者や家族に責任者と担当者が一緒に訪問し、改めて金品・お茶菓子がなぜ受け取れないのか説明。相手に納得していただき、受け取ったお茶菓子等を返すようにします。
その結果、利用者や家族が怒って「そんな事業所であるなら、他所と契約します」と支援契約自体が取り消されるかもしれません。しかしこれだけきちんとした対応をして、もしそうなったのであればこの結果は仕方ないと考えましょう。
一時的に実績が落ちたとしても、きちんとした仕事をしている事業所は必ず評判が評判を呼び、地域で必要とされる事業所として利益が出るようになります。縁が無かったと切り替える事も適切な事業所運営には必要な視点です。
寄付はどうする?
例えば家族から「おじいちゃんが使っていたオムツとパットなんですが、施設に入所して使わなくなったから良かったら寄付したいのですが、いりませんか?」等と言われることがたまにあります。
この時寄付としてもらう場合もあると思いますが、僕が注意していることがあります。
それは、現在支援中の利用者や家族から寄付をもらうことです。もし、そういった方達から寄付を受け取ってしまえば、それは寄付ではなく「金品の授与」と同じ状況になってしまい、公正・中立の担保ができなくなってしまいます。
会社や法人が個人などから寄付を受ける事自体は違法ではないのですが、ケアマネの倫理観に触れないかは十分な配慮が必要と言えます。
まとめ
このお茶菓子問題の結論として
Ⅰ:何も受け取らないのが完璧な対応
Ⅱ:問題の構図は「日本人の客人に対する礼儀・価値観」VS「ケアマネの倫理感」
Ⅲ:受け取らないようにするために契約時や、渡そうとしてきた時に受け取れない旨を說明。できない時は責任者と一緒に対応する
Ⅳ:寄付は現在支援中の利用者や家族からは受け取らないほうがよい
こんな感じです。断るのも大変な事ですが、長い目で見た時にやはり受け取らないようにしたほうが利用者や家族と良好な関係が築け、結果良い支援ができると思います。
お茶菓子問題で頭を悩ませている人は是非、参考にしてみてください。