今年ケアマネに向けて厚労省から新しい情報が発信されました。それが
「適切なケアマネジメント手法」の手引き
これです。老健事業として、日本総合研究所による委託調査事業として作成されたのがこの手引き。調査事業は2016年度から開始されているため、約5年もの時間をかけて作り上げたノウハウとの事。
この手引きを作った目的はこのように記されています。
「介護支援専門員の先達たちが培ってきた知見の中で共通化できる知見に着目し、それを体系化することにしました。これが本冊子で取り上げる『適切なケアマネジメント手法』です」
「適切なケアマネジメント手法」は、要介護高齢者本人と家族の生活の継続を支えるために、各職域で培
われた知見に基づいて想定される支援を体系化し、その必要性や具体化を検討するためのアセスメント /モニタリングの項目を整理したものです。まずはこの手法のねらいや概要を知り、介護支援専門員の質の平準化や初任段階の介護支援専門員の育成を加速化させるために活用して頂きたいと思います。
引用:日本総合研究所『適切なケアマネジメント手法」の手引き』より
実際の手引きですが、PDFファイルだけでなくYOUTUBEでの動画解説も日本総合研究所からアップされています。YOUTUBE動画での情報配信は介護業界では画期的な変化ですね。
PDFファイル版
YOUTUBE版
YouTubeで学ぼう 適切なケアマネジメント手法の手引き、短尺の解説動画が公開
今回はこの「適切なケアマネジメント手法」(以下手法)を僕自身が実際に業務で使ってみての感想や、感じた事などを書いてみたいと思います。
適切なケアマネジメント手法の特徴
最初にこんな疑問がある人が多いと思います。

そもそも「適切なケアマネジメント手法」ってどういうものなの?
そこでまずは大まかな特徴について紹介します。
特徴①ケアの「あたり」を効率よくつける
ケアのあたりを効率よくつける。
「一体何を言ってるの?」
こう思う人も多いと思います。そこで少し具体例から考えてみましょう。
(例)
病院のMSWから退院後の支援の依頼が入りました。その内容は
一人息子が県外に住んでいますが、仕事が忙しく年に数回しか帰ってきてないそうです。
今回転倒し大腿骨を骨折し、車いすが必要な状態になっています」
この依頼を受けた瞬間、皆さんはどんな事を考えますか?人によって色々あると思いますが、このような事を考える人が多いのではないでしょうか?
こういった事を考えますよね。その結果、必要と思われる情報を確認したり、必要な可能性の高い介護サービスなどの調整をあらかじめやっておく。
これが「あたり」をつけるという事です。しかしこの「あたり」はケアマネジャー個々人の力量や経験によって差があるのがこれまでは当たり前でした。
新人とベテラン、福祉系資格と医療系資格のケアマネ。それぞれの持つ能力で「あたり」のつけ方は異なります。
その問題をある程度解決できることが期待されます。
特徴②基本ケアと疾患別ケアの2階建て
手法は「基本ケア」の1階部分を基礎に、よくある疾患(脳血管疾患、大腿骨頸部骨折、心疾患、認知症、誤嚥性肺炎)毎に必要なケアに焦点を当てる「疾患別ケア」の2階建て構造となっています。
画像引用:ケアマネジメントオンラインより
基本ケアは全てのケアに共通する「これは絶対押さえておきたいポイント、視点」みたいなものです。
(引用:適切なケアマネジメント手法より)
この基本ケア部分をしっかり理解し、実践で使えるようになるだけでもかなりのレベルアップが期待できると思います。
その上で疾患の特徴別に押さえておきたいポイントをまとめたものが「疾患別ケア」の2階部分です。
ここでは5つの疾患しかありませんが、基本的な考え方を押さえておけば、ここに載ってない疾患でも応用が利くと思われます。
例えばこのような項目があります。
どんな時に使うのがいいのか?
僕が実際に使ってみた中で、この「手法」をどういった時に使うのがいいか考えてみました。
①普通に自分が使う
当たり前ですが、まずはこれですね。例えば僕の場合、ベース資格が社会福祉士で福祉系です。
その為医療系のマネジメントに対しては、看護師などの資格がベースのケアマネに比べると自信があるわけではありません。
そんな時に、この手法を参考にしながらマネジメントを行えるのは助かります。なにせ多くの実力あるベテランの偉い方達の英知を集約したノウハウ。これに沿ってやれば、少なくとも大きな間違いはない事は保証されているようなものですからね。
加えて自分自身のこれまでの支援を振り返る際の「セルフチェック」としても使えます。

あの時のケース。なんか上手くいかなかったんだよな。でも、何が良くなかったのかよく分からない
皆さんもこういうモヤモヤしたままで、そのまま放置されているケースってないですか?
忙しい時は難しいですが、少し時間がある時にモヤモヤケースをこの手法を使って振り返ってみる。
そうするとこれまで見えなかった「気づき」が見つかる事があります。こういう小さな積み重ねが成長に繋がるので試してみる価値はありますよ。
②後輩や部下の指導に使う(スーパービジョン)
ケアマネジャーとしてキャリアを積んでいけば、管理者になったり先輩になって新人が後輩になったりします。
その時に当然仕事を教える事になるのですが、支援の進め方が人によって大きく異なると、指導される側はメチャクチャ困ります。

管理者のAさんと指導係のBさんで考え方が違う。一体どっちの言う通りにすればいいの?
この記事を読んでくれているあなたも、先輩や上司の言う事が違うせいで困った経験はありませんか?
こういうストレスが原因で、せっかく来てくれた新人が辞めてしまう事だってあるし、仮に辞めずに続けたとしても

もうよく分からないから、自分なりのやり方でやるわ
こんな風に我流に走ってしまい、気づいた時には修正不可能な状態になる事もあります。
そういう事態を防ぐためにも、基本的な支援の指針となるこの手引きを使えばいいのです。これに沿って進める事で基本的な考え方や流れが掴める為、新人が戸惑う事なく正しいやり方を学べるようになるのです。
「適切なケアマネジメントの手法」のメリット、デメリット
どんなモノにでも必ずメリット、デメリットがあります。それはこの「手法」にも言える事です。
僕が使ってみて感じたメリットとデメリットを紹介します。
メリット:一定レベルの支援なら誰でも行えるようになる
この手法のメリットの最大の利点は、具体的なマニュアル。もっと言えば支援の「説明書」がある事で、説明書通りにやれば誰でも一定の結果がかなりの確率で出せるようになる事です。
僕がまず感じたのが
「この手法が新人の時にあったら、メチャクチャ助かっただろうな~」
これです。僕が新人の頃は右も左も分からず、上司の管理者ですらケアマネの経験がまだ2年ほどしかない状況でした。だから周囲に頼れるような人がいなくて、本当に手探りで色々な人に教えてもらいながら業務をこなしていました。
そのような状況ですので「このやり方で本当にいいのだろうか?」
そんな不安を抱えながら仕事をしていました。ある程度経験を積み、学んできた知識と経験がカッチリかみ合うようになってからは自信をもって仕事ができるようになりました。
しかしこの境地に達するには、僕の場合約5年はかかりました。でも、普通に考えたらある程度自信をもって仕事ができるようになるのは早いに越した事はないですよね。
そこでこの手引きに沿って支援を進めればいいのです。そうすれば、少なくとも大きな間違いはないし、「なんでそうやるんですか?」なんてドキリとする質問をされても、手引きを根拠に説明すれば質問した側も納得せざるを得ません。
なんせこの手引きは国のお墨付き。その手順に沿って仕事を進めている以上、反論の余地はほぼあり得ないからです。
またこの手引きを多くのケアマネが利用する事で、ケアマネ全体のレベルアップが図れると思います。
ケアマネの中には残念ながら、無駄に経験年数だけ積んで、実際のスキルは新人とほぼ変わらない残念な人達も一定数います。そういう人達も含めて利用する事で全体の底上げに繋がる事も期待されます。
デメリット:思考停止のケアマネが増える恐れがある
先ほどのメリットで書いたように、この手順に沿って支援を進めれば大きな間違いはなく、誰でも一定レベルの仕事ができるようになります。
しかしこれ、裏を返せば「この手引き通りにやっていれば、それでOKでしょ」って考える人も増えるという事でもあります。
この手引きに書かれている以上の事はしないし考えない
こんなケアマネが増えてしまえば本末転倒。事例検討会などを開いた日には、全員が同じようなケアプランを作っている。
いわゆる「ケアプランの標準化」問題。ケアプラン作成が今後AIで行われていく流れで、懸念されている大きな問題です。
この問題を避ける為にも、この手引きを使う時に大事な考えがあります。それが
利用者や家族の価値観をちゃんと肉付けする
この手法は確かに理論上正しい。でもこれだけでケアプランを作ってしまうと、とても冷たい印象の内容になります。
それは基本的に病気やADL、認知・精神面などの利用者のヘルスケアに手引きの内容がフォーカスされているからです。
もちろん利用者が心身共に健康でいる事は大事です。でもそこに+α、利用者にとって大切な価値観がなければ、本当の意味で生きたケアプランにならないと思います。
「運動しないと足腰が弱るから、デイに休まず行って運動しましょう」
「糖尿病を予防する為に、カロリーコントロールをした食事をしましょう」
こんな事ばかり言われたら、僕ならこう言っちゃいます。
「うっせぇわ!!」
どれも言ってる事は正しい。しかしなんか違う。
お酒だってたまには飲みたいし、甘いお菓子だって食べたい時は食べたい。
なんかやる気がしない時には、退屈なデイに行って運動なんてせずに、家でダラダラTV観たり漫画を読んだりしたい。
ちょっと介護が必要になっても、行きつけのお店で食事したり、スナックのママと会話しながらゆっくり飲んだり。パチンコに行きたい人もいれば、キャバクラなんかで若くてキレイなお姉さんと楽しい時間を過ごしたいなんて人もいるでしょう。
大事なのは、こういう価値観をケアマネが理解しながら、専門職としての理論とすり合わせをちゃんと考える誠実さがあるかどうかです。
お酒が好きな人にお酒を辞めろと言う。糖尿病の人に甘いものは食べるなと言う。運動嫌いで足腰が弱っている人に運動しろと言う。
健康に悪い事は全部止めて、健康に良い事だけをする
本当にそんな人生を、残された時間送り続ける事を本人は望んでいるのか?もし違うと感じるのであれば、少しでも利用者が大切にしている価値観を反映させてほしいと僕は思います。
・利用者が行きたいならパチンコやキャバクラなどに連れて行ってあげることはできないか?
・ゴルフが好きだった人は、せめてパターゴルフができるお店でプレーができないか?
この辺りは主治医や他の専門職とも相談が必要です。その結果、すぐにはOKは出ないかもしれないし、できないかもしれない。
でも、それでも。ケアマネが自分の価値観を理解してくれて、それを少しでも実現させようと努力してくれた。
それだけで利用者や家族にとってはメチャクチャ嬉しいんです。そして喜んでくれたら僕達ケアマネだって嬉しい。
「苦労したけど頑張って良かった」
普通に無難な仕事だけやっていては感じれない喜びだと思います。
こういう価値観をこの「手法」に肉付けする事ができれば、標準化問題を防ぎながら非常に質の高いケアプランが作れるようになると思います。
まとめ
適切なケアマネジメント手法は上手く使えば、ケアマネの仕事の大きな助けになります。
一方で、この手法はケアマネにとって数あるツールの一つに過ぎません。ツールに縛られるのではなく、臨機応変に利用していく。
僕が実際に使ってみて、出した結論としてはこんな感じです。
この記事を読んでくれた人で、まだ使っていない人は試しに使ってみて、自分なりにこのツールと付き合っていただければ良いと思います。
「ケアマネになりたい、でも試験に全然受からん」
こんな人へ。大丈夫、ケアマネ試験は正しい勉強方法を知っていれば誰でも受かります
僕が試験に一発合格した時に使った方法を教えます
次こそ試験に合格して、周りの人達を見返してやりましょう。その方法をこのnoteに余すことなく書き上げましたので、試験に受かりたい人は読んでみてください