支援を大きく前進させる「動機づけ面接」とは

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コミュニケーション技術

皆さんは自分が持っているケースのなかで一向に支援が前に向いて進まないものはありませんか?

ここでいう支援が進まないというのは、誰が見ても明らかに介護サービス等何かしらの支援が必要なのに、利用者や家族が受け入れできず、結果として放置状態になっているような事例等が該当します。

このようなケースで多いのは、一方的にケアマネが話をしてしまい、「この人達は何を考えているんだ・・・」と徒労感だけが募り、結果何も進展しない状況です。

この八方塞がりな状態を打破するために有効なのが「動機づけ面接」による手法を使う事です。動機づけ面接にも様々な手法がありますが、今回は月刊ケアマネジャー2019年10月号に掲載されていた、須藤晶寛氏による手法を一部ご紹介させていただきます。

この月刊ケアマネジャーは年間購読がお得です。最新のニュースやノウハウが分かりやすく記載されいる専門誌で、ケアマネの人にはオススメです。

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動機づけ面接に必要な視点

①人の基本的バイアスを理解する

まずは人の基本的バイアス。もっと言えば基本の心理というものを理解しておきましょう。それは「変わりたい」と「変わりたくない」という相反する心を持っているということです。

例えばですが、皆さんはこんな事を思った事はないですか?「もっとお金を稼げるようになって、お金持ちになって、自由な生活がしたい」

別に上記の内容でなくて良いのですが、要は「こんな自分になりたい」という思いです。つまりこれは「今の自分を変えたい」という欲求であり願望です。

しかし、なりたい自分になるためには今の生活習慣を根本から改善し、もっと勉強するなど具体的な行動を起こす必要があります。でも、多くの人がなりたい自分になるために、今を変化させれていないのではないでしょうか?

これも自然な心理状態で「現状維持バイアス」と言います。人は本能的に今を変えようとする事にストレスを感じることを知っています。そのストレスを避けようと現状維持、つまり何も変えようとしない心理状態になりやすいのです。

まずは人にはこの相反する2つの心理があることを知っておきましょう。

②動機づけ面接の基本スキル「OARS」

須藤氏は動機づけ面接に必要な基本面接技法を4つ定義しています。

Ⅰ:開かれた質問(Open questions)

Ⅱ:是認(Affirming)

Ⅲ:聞き返し(Reflecting)

Ⅳ:要約(Summarizing)

面接技法の詳しい内容に関しては、

コミュニケーション能力は正しい技術をマスターして身につけよう ケアマネに必須の相談面接技術とは

をご参照ください。

③動機づけ面接のスピリット「PACE」

OASRというスキルを正しく使うために、支援者側は土台となる4つのスピリット、つまり考え方の事です。

Ⅰ:協同(Partnership)

クライエントを1人の専門家と捉え、共に問題を解決していこうとする姿勢

Ⅱ:受容(Acceptance)

クライエントに共感し、自律を尊重していく姿勢。この受容をするためには、支援者自身の間違い指摘反射に気をつける必要があります

Ⅲ:思いやり(Compassion)

クライエントの利益を最優先させる事

Ⅳ:引き出す(Evocation)

問題解決の方法をクライエントの中から引き出していくこと

④動機づけ面接の4つのプロセス

Ⅰ:かかわる(Engaging)

最初のプロセス。ここではまず信頼関係の形成が何よりも重要視されます。そして「共に問題を解決していくパートナー」であるという認識をお互いに持つ事が大事です。

この信頼関係という土台がなければ、絶対に支援は前進しません。最初のプロセスですが丁寧なアプローチが求められます。

Ⅱ:焦点化する(Focusing)

これは面接を進めながら、クライエントが解決すべき問題を具体的に絞り込んでいくプロセスです。

大抵の場合、クライエントが抱えている問題というのは複数あります。しかしそれら全ての問題をいきなり一気に解決することはほぼ不可能で現実的ではありません。その為問題解決の優先順位を一緒に考えていきます。

この時ケアマネジャーが「いやそれは大した問題じゃない。こっちのほうが重要でしょう」等とクライエントの考えを簡単に批判して信頼関係が損なわれたら、プロセスⅠからやり直しです。何が重要かは人によって異なります。ケアマネの価値観で早急な判断をするのではなく、クライエント自身が決めていけるよう支援します。

Ⅲ:引き出す(Evoking)

最初に述べた「変わりたい要求」と「現状維持バイアス」で揺れる心から、徐々に「変わりたい」という思いを引き出すのがこのプロセスの重要ポイントです。そのために幾つかポイントがあります。

・チェンジトークを聞き逃さない

「家に引きこもってばかりだと、やっぱりいけないとは思うんですよね」

こういう発言がチェンジトーク、つまりクライエントの変わりたいという思いが引き出された発言です。こういう大切な発言を聞き流してしまうと支援は前進しません。OARS面接技法の聞き返しや要約などを用いて、その発言を掘り下げていきます。

・チェンジトークを増やしていく

チャンジトークが出始めたら、今度はそれを増やしていくことを考えます。この時有効なのがOARS技法の「開かれた質問」です。

「○○さんは自分でこの事についてどう思っていますか?」

「現時点で、何か具体的にやってみようと考えていることはありますか?」

こんな風に聞いていきましょう。この積み重ねが徐々にクライエントから「変わりたい」という気持ちを強める効果が期待できます。

・問題の重要度を尋ねる

少し高度なテクニックですが、話題になっている問題の重要度を10段階評価で答えてもらうことです。この時コツがあり、それはクライエントの答えた数字より支援者は小さい数字を出して質問することです。

(例)

CM:「掃除ができないことは、○○さんにとって重要度は10段階でどれくらいですか?」

CL:「6くらいかな」

CM:「どうして、3とか4でなく6なのですか?」

CL:「やっぱり、家が汚いままだと不衛生で病気にもなりやすいだろうし、家が散らかっていることはあまり気持ちのいいものじゃないからね。まあでも、食事の用意ができない事に比べたらまだいいかなって思うんですよ」

こうする事で、よりチェンジトークを引き出せます。逆に支援者側がクライエントより大きな数字を示してしまうと先程の「こっちのが重要でしょう」という、暗にクライエントを批判する姿勢が伝わってしまい逆に現状維持バイアスを強めてしまう結果になります。

Ⅳ:計画する(Planning)

最終段階であり、正にケアマネとして1番重要な仕事です。ここでも支援者側が一方的な提案や計画立案をしてはいけません。あくまでもクライエントと一緒に計画を立てていきます。変わりたい気持ち、動機づけが強くなっている状態であれば、具体的な話がテンポよく進んでいきます。

しかしここで注意点があります。翌日等、一旦時間が経ち気持ちが冷却してしまうと、変わることの恐れが強くなり現状維持バイアスから「やっぱり止めたいのですが・・・」という風に言われる事はよくあります。これは仕方のない事で、皆さんにも似たような経験があるのではないかと思います。

そのような時に「何を言っているんだ。もう色々な所に連絡・調整しちゃったよ・・・」とクライエントを非難しても何も良いことはありません。そのような時はもう一度、一から面接をやり直し再び動機づけを高めていけるよう支援します。

この4つのプロセスは直線的に進むというより、進んだり戻ったりを繰り返しながら少しずつ前進していくイメージをもっておくとよいでしょう。

まとめ

動機づけ面接を進めていくためには

①変わりたい気持ちと現状維持バイアスという相反する心理の理解

②面接の基本スキル「OASR」

③面接スピリット「PACE」

④面接の4つのプロセス(かかわる、焦点化する、引き出す、計画する)

です。この動機づけ面接はコーチングとも考え方が重なる部分が多くあり、応用すれば新人職員の育成にも利用できる技法です。

是非、専門性の高い面接技法を身につけ、レベルの高い支援を行っていただきたいと思います。

 

 

 

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