最近社会的にも関心度が高くなってきた「認知症」
介護業界で働く僕達は長年関わってきた分野ではありますが、まだまだ一般的にも、この業界の専門職にも正しく理解されていない面があります。そこで、今回は認知症について知っておきたい基本的な事を紹介したいと思います。
認知症は治らない障害であることを理解する
最近メディアの健康番組などでよく「この食材を毎日食べる人は認知症になる確率が○%低下する」等と発信され、認知症予防を意識する人が増えています。
また随分長い年月「認知症の治療薬」ができると言われていますが、現実には全くできておらず、今後もできる見通しがありません。
そもそも認知症という名前から病気になったみたいなイメージが強いのですが、どちらかというと「脳機能が加齢などの要因に伴って不可逆的に低下する」というほうが正確です。これは高齢になれば、若い時より体の体力・筋力などの力が落ちるのと同じように、脳の力が衰えていく加齢に伴う自然現象であると言えます。つまり、認知症を治そうとするのは「若返りの薬」を作ろうとしているくらい困難な事なのです。
この事を理解できれば、認知症は「治らない・治そうとしない」というスタンスで周囲は支援することが大切になります。その上で認知症の人が生活を安心し、生きがいを感じられるような支援をすることが重要になります。
認知症ケアにおける2大ケア
①薬物療法
これは認知症を「医学モデル」で捉えた時のアプローチです。
認知症が疑われる人に対して、脳のCTやMRI画像を撮る。長谷川式やMMSEなどの認知機能テストをする。そして家族などから症状の問診。その結果から病名をつけ、症状を抑える為に薬を処方する。
薬物療法は認知症の症状が強く出現していて、本人も家族などの周囲も疲弊しきっている時に精神的に落ち着いて過ごせるようになるまでは有効な手段となります。しかし注意したい点があります。それは薬物療法で効果が出た経験をもつ専門職や家族などは、症状が少しでも出現するとすぐに薬の追加や増量に走りやすいということです。
薬物療法には副作用のリスクが高く、その人に合った調整が専門医でもすぐには難しいという面があります。副作用が強くなれば、余計に症状が悪化して転倒や他の病気の発症などに繋がる恐れもあります。安易な薬物療法はかえって利用者を危険にさらすことを知っておく必要があります。
さらにこの薬物療法は認知症ケアのうち効果としては20%程度しかないと、精神科のDrなども言っています。その為薬物療法にあまり過剰な期待はしないほうがよいのです。
②環境整備・周囲の関わりのケア
認知症で大事なのは薬物療法よりむしろ周囲のケアです。
認知症は中核症状(記憶障害、見当識障害、失語・失認・失行、実行機能障害)と周辺症状(BPSD Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に分けられます。
中核症状は認知症を発症した人であれば、ほぼ全ての人に共通して起きます。しかし幻覚や妄想、徘徊や暴力などのBPSD関連症状は周囲の適切なケアによりほとんど発症しない人もいますし、発症しても適切なケアを開始することで日常生活を穏やかに送れるようになるケースは多くあります。それくらい重要だということです。
認知症理解に必要な4つの要因
①身体的要因
例えば体に痛みがある時、口の中の虫歯や口内炎が痛む、便が出なくて気分が悪い、喉が乾いている。こんな状態の時は僕達もいつもと異なる表情を見せたり、態度をとったり、普段できることでも失敗したりしますよね。
認知症の人達も同じです。普段と異なる様子が見られた時はまずこの身体的要因を考えてみましょう。
②心理的要因
人間は「機嫌が良い/悪い」みたいに、その時々の状況によって気持ちに変化があるのが普通です。ですが、認知症の人の対応をする時この心理的要因を考えずに「原因もないのに怒り出した、泣き出した=感情失禁、認知症の影響で感情不安定になった」等と考えがちです。
しかし感情が表に出る時は、そうなる要因が隠れていることが多いです。認知症の人が感情的になる理由を考えることはとても大事です。
③環境的要因
例えば雨の日は外に出るのが面倒臭くなる。人見知りの人であれば、大勢の中で過ごす事に強いストレスを感じる。
このように、人はその置かれた環境によっても大きく影響を受けます。認知症の人を理解する時に「この人は今置かれている環境に対して、どのような感情を抱いているのか」を考える必要があります。
④個人的要因
これは、その人個人のこれまでの生活史や、それに基づいた生活習慣などが、今の行動に与える影響です。
例えば朝食は食べずに朝起きたらすぐ仕事をしていた人であれば、朝食を出しても食べようとしないのは普通の事です。会社の社長をしていた人であれば、どうしても言動が指示・命令的でキツイように感じてしまう、といったことです。
この個人的要因はできる限り細かい部分の把握をすることで、その人の行動理解が深まります。例えば「食事は必ず味噌汁から飲む」というこだわりを長年続けた人であれば、味噌汁がないメニューの時に食事をしようとしない行動を理解する事ができますが、知らないと「なんで今日は食事をしようとしないんだろう?体調でも悪いのかな・・・」となってしまいます。
実際に認知症の人を見る時は、この4つの要因は単独でだけ考えるよりも複合していることがほとんどです。その為4つの視点から捉え「現状の様子は〇〇という身体的要因と、〇〇という心理的要因から起きているのではないか?」というように分析し、仮説を立てて、実際にその仮説をケアの中で実践し確認することが必要になってきます。
次回以降、実践で対応に苦労している人が多いBPSDへの対応方法について紹介していこうと思います。