知らないとケアマネできない疾患。今回は担当利用者の中で必ず数人は罹患している確率の高い「糖尿病」です。
それもそのはずで、2017年9月に報告された平成28年「国民健康・栄養調査」から「糖尿病の可能性が否定できない者」「糖尿病を強く疑う者」を合わせると約2、000万人という結果が出ています。日本の人口が約1億人ということを考えると国民の5人に1人が糖尿病、もしくは予備軍という状況です。
今日はそんな患者数の多い糖尿病について、著書「ケアマネジャーの医療知識」から紹介します。
糖尿病とは?
糖尿病は、インスリン作用の不足により生じる慢性の高血糖を主な症状とする代謝疾患です。
インスリンは膵臓から分泌され、血糖値を下げるホルモンです。
糖尿病は主に二つの病型に分かれます。
・1型糖尿病
自己免疫反応の異常やウイルス感染等の原因により、膵臓からインスリンがほとんど出なくなる(インスリン分泌低下)ことで血糖値が高くなります。膵臓でインスリンを作るβ細胞という細胞が壊れてしまうため、インスリンが膵臓からほとんど出なくなり、血糖値が高くなります。
特徴として子どもや若い人に多いです。
・2型糖尿病
遺伝的要素と生活習慣が加わってインスリンの分泌低下、あるいはインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる事)により血糖値が高くなります。
特徴として中高年に多い。1型と2型の患者割合として全体の95%は2型糖尿病と言われているため、高齢者の多くは2型糖尿病に分類されます。
糖尿病の三大合併症
①腎症
腎症は腎の糸球体の病変により生じたものです。軽微なアルブミン尿から始まり、タンパク尿、浮腫、高血圧、腎不全を呈し、最終的には末期腎不全に陥ります。尿蛋白が出現してからの経過は比較的速いです。
②網膜症
網膜症は単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症と進み、増殖網膜症では視力低下が進み失明に至ることもあります。
③神経障害
神経障害は神経病変と血管障害により生じます。四肢遠位部のしびれなどの末梢神経障害と、自律神経障害、動眼神経麻痺などの単神経障害があります。
診断
糖尿病の診断
次のうち、どれか1つでも満たした方は、糖尿病の疑い(糖尿病型)です。
- 空腹時血糖値(10時間以上絶食後の、早朝空腹時の血糖値)126mg/dL以上
- HbA1c 6.5%以上
また日本糖尿病学会が新しい診断基準を設けています。
腎症の診断
腎症の診断は尿蛋白の有無を調べ、持続的陽性ならば第3期移行の腎症の疑いが高いと言えます。陰性でも微量アルブミン量が見られれば、第2期の診断です。血清クレアチニンとそれによって計算される推定糸球体濾過量(eGFR)は腎症の病期を知る上で参考になります。
詳しくはこちらの糖尿病性腎症の病期分類を参照ください。
網膜症の診断
網膜症は眼底所見により診断される為、通常は眼科の診察を必要とします。眼科で以下のような所見が見られると網膜症の診断がなされます。
神経障害の診断
神経障害の診断はいくつか種類があります。
①アキレス腱反射
腱反射用のハンマーでアキレス腱を叩き、正常な反射が出るか確認します。運動・感覚神経障害の指標になります。
②モノフィラメント検査
プラスチックのフィラメントで足底や足背を軽くさわり、感覚があるかどうか確認します。感覚障害の指標になります。
③振動覚検査
音さを震わせて踝の内側にあてて、振動を感じるかどうか、何秒間振動を感じ続けるか確認します。感覚障害の指標になります。
④心拍変動検査
心電図検査のひとつです。心臓の拍動回数は、息を吸う時と吐く時で変化します。このような呼吸に伴う心拍のゆらぎは自律神経がコントロールしているので、心拍の変動が弱い場合には自律神経障害があることが疑われます。
⑤神経伝導検査
皮膚の上から神経を電気で刺激し、刺激の伝わる速度などを観測します。電気の刺激を与えるので、少し痛みを伴う検査です。症状のない糖尿病神経障害の診断を行うのに有用です。
糖尿病の症状
糖尿病は通常症状はありません。ただし著しい高血糖では口渇、多尿、体重減少が見られ、さらに高血糖性昏睡が見られる事があります・
腎症はある程度進行するまで症状はなく、腎不全期に至ると夜間尿、さらには浮腫が出現します。
網膜症は、増殖前網膜症までは病変が黄斑部付近でなければほとんど無症状ですが、増殖網膜症に至ると、視力低下が進むことがあります。
神経障害は末梢神経障害ではしびれ、疼痛、温痛覚の鈍麻などの知覚異常が見られます。症状は上肢より下肢に出現しやすいと言えます。
自律神経障害では、たちくらみ(起立性低血圧)、胃腸症状(胃のもたれ、便秘等)、泌尿器系症状(排尿障害、勃起障害等)が見られます。
糖尿病の治療
糖尿病の治療の基本は代謝異常、主として高血糖を是正することです。理由は合併症の進展は血糖値のコントロールに左右されるからです。
血糖コントロールのために主に「食事療法」「運動療法」「薬物療法」が用いられます。
食事療法
食事療法は治療の基本になります。適正な摂取エネルギーが定められており、バランスの取れた食事が大切です。摂取カロリーは
標準体重 ✕ 25~30
が1日分とされますが、要介護者の場合は運動量が少ないため標準体重✕25Kcalが適正量と言えるでしょう。
なお適正体重の計算は身長(m)✕身長(m)✕22です。
運動療法
運動療法は要介護者の場合、あまり大きな効果は期待できませんが、軽い有酸素運動が奨められます。
例えば家事、買い物や散歩などを行い日常の身体活動を増やしましょう。また、可能であれば軽いジョギング、ラジオ体操、自転車、水泳など全身を使った有酸素運動を無理のない範囲で行います。軽い筋力トレーニングも有効です。
薬物療法
糖尿病の薬にはいろいろな種類があります。薬の種類としては、飲み薬と注射薬があります。 飲み薬では、インスリンの分泌を良くするもの・効きを良くするもの、食事でとった糖の分解・吸収を遅らせるもの、糖の排泄を促すものがあります。注射に は、インスリンの分泌を促す注射や、インスリンそのものを外から補う注射があります。
インスリンは通常、経口内服薬でも血糖コントロールが不十分な状況で導入されます。手技に関しては高齢であれば家族に頼らざるを得ないところがあります。
今回は糖尿病の基本的な特徴について紹介しました。次回は糖尿病の特徴を踏まえた上で、ケアマネジメントのポイントについて解説をします。
参考書籍