先月東京消防庁が、高齢者の転倒事故が増えているとして注意喚起をするアクションを起こしました。
増え続ける高齢者の日常生活における事故について、東京消防庁が改めて注意を喚起している。とりわけ転ぶ事故が多く、引き続き周囲の気配り、サポートが欠かせない。
圧倒的に多いのが転倒だ。実に全体の81.7%を占めている。その数は年々増加し、2018年には5万8368人が救急搬送された。
このうち約4割は、搬送後に入院する必要がある中等症以上と診断されている。中等症以上の割合は、年齢が高くなるにつれて上昇するという。
転倒事故の発生場所は自宅などの住まいが最多。全体の56.2%を占めており、「道路・交通施設(34.5%)」より多い。特に居室・寝室が目立つが、玄関・勝手口や廊下、トイレなどで起きるケースも少なくない。
そのうえで、「本人だけでなく家族や地域で事故について考えることが重要」と強調。「加齢に伴う身体機能の変化や事故の傾向について知り、事前の防止対策を」と改めて呼びかけている。転倒事故の注意点としては、
○ 立ち上がる時は近くのものにしっかりとつかまる
○ 着替える時には無理して片足立ちせずに腰かける
などを例示し、周囲にも適切な配慮を促している。
引用:ケアマネタイムスより
これを読んで多くの人は「そうか~、皆で気をつけて転倒を防がないといけないな」と思うでしょう。
しかし、介護の現場で長く働いてきた人は高齢者の転倒事故がいかに防ぐのが難しいのかを皆知っています。
最近このような啓発の影響で、転倒を防がなければいけないという意識は一般の人にかなり広まってきたと感じます。デイやショートステイ、施設入所などの介護サービスを利用するときも家族から「とにかく転倒をさせないようにしてくれ」と随分強い口調で言ってくる人も増えました。
そしてそのような人達の考え方はこうです。
「転倒は、きちんと見守りしていたら防げる。もし、万が一転倒したら、あんた達の見守り不足以外あり得ない」
まあ、大体こんな感じですね。介護サービスを利用する前に全ての利用者と家族に転倒などの事故についての説明はケアマネからも行いますし、サービス事業所からも行うはずです。その時
「転倒含め、事故は100%防ぐことはできない」
ということをしっかり説明します。転倒には下肢筋力の低下や認知機能低下による危険予測や注意障害、住環境等様々な要因があります。それに対して最善の予防対応はもちろん行うが、それでも24時間職員が側でつきっきりの対応ができない以上防ぐことはできません。
そして、僕が9月にリスクマネジメントの研修に参加した時、講師の医師の先生がこのような発言をされていました。
「我々医師の間では、高齢者の転倒は加齢によって生じるフレイルやサルコペニア等の発症による、一種の症状という考えが昔からある」
この言葉は僕に強烈なインパクトを与えました。転倒は100%防ぐことはできないと分かっているけど、実際に転倒してしまうと「自分達の対応が甘かった」と自分達を責める考えになってしまい毎回辛い気持ちになります。
その原因は市町村に提出する事故報告書の内容が影響していると思います。この報告書の中には「事故の要因」「今後の対応策」というのがあります。
これはもちろん必要な項目です。事故の要因を分析し、それに基づいた今後の予防策を考えることは確かに大切です。しかしその基本原則が、全ての事故に当てはめれるわけではないのです。
事故の発生要因が分かった上で、最大限の努力をしていても発生することもあるのが事故です。そういった事故に関して僕は「対応策」は空欄か現状の対応を継続で良いのではないかと思います。(現実にはそれではいけないので何かは書きますが)
講師の医師の先生も上記の言葉の後に「このような事を言っても世間は納得しないので、全力で対策するしかない。しかし、少しずつ高齢者の転倒は致し方ないことも広めていければいい」と言われてました。
これらの事から僕が言いたいのは
「転倒が増える=悪い事・周囲の注意が足りない」ではなく、高齢者が増え続ける現状ではある意味自然な現象
だということです。こういった認識が少しずつでも広がっていってほしいと思います。