介護の現場で働いた事がある人なら、一度は受けた経験があるのが利用者や家族からの「ハラスメント」ではないでしょうか?
普通の業界であれば、各種ハラスメントに対して厳しい対応をしている昨今では、顧客からのハラスメントは以前に比べると抑制されてきている印象です。
しかしこれが介護の業界では
「これも仕事のうち」
「こういうものだから、我慢しないといけない」
こんな考えが当たり前になってしまっている状況に、改めて疑問を感じます。
今回はなぜ介護業界ではハラスメントが起きてしまうのか、ハラスメントに対して僕達働く職員はどう対策をしていけばいいのかについて考えてみたいと思います。
介護現場で起きているハラスメントについて
まず、介護現場で行われるハラスメントですが、大きく分けて2種類あります。
①パワーハラスメント
パワーハラスメント、いわゆる「パワハラ」ですね。
このパワハラには大きく分けて、身体的な攻撃。一言で言えば「暴力」と、暴言等で職員の精神面を傷つけるものの2つがあります。
暴力行為は、主に認知症や精神疾患などによる周辺症状の一種として出現する事が多く、ハラスメントを行う人の状態像はある程度限られてきます。
対して暴言等の精神的ハラスメントは、認知症や精神疾患のある人もそうなのですが、特にそういった疾患を患っていない人でも行う事がある為、こちらに関しては誰が加害者になってもおかしくありません。
また利用者ではなく、その家族が行うのも主にこちらのハラスメントでしょう。(些細なミスを執拗に責め立てる、説明しているにも関わらず無理な要求をしつこく行ってくる、等の悪質クレーム)
②セクシャル・ハラスメント
セクシャル・ハラスメント、いわゆる「セクハラ」です。
圧倒的に多いのは、男性利用者が女性職員のお尻や胸などを触る直接的な行為です。或いは言葉で卑猥な事を言ったり、要求するという事があります。
認知症や精神疾患による症状として出現する場合と、そうではないのに意図的に行われる場合も多くあります。
そしてあまり認識されていませんが、意外とあるのが男性職員に対する女性利用者からのセクハラです。例えばですが
・「○○さんと私は付き合っている」「○○さんの子を身籠っている」等の妄想
介護現場でハラスメントが起きる原因とは?
①加齢による理性のコントロール能力の衰え
高齢になると、若い時に比べると足腰が圧倒的に衰えます。これは誰もが知る当たり前の事です。しかし衰えるのは何も身体だけではありません。それは「心」です。
もう少し具体的に言うと、ストレス耐性や理性のコントロール力が落ちてきます。これによってストレスを自分より弱い相手にぶつけやすくなる。或いは理性が効かなくなって感情や欲望に任せた行為に走りやすくなるのです。
②認知症、精神疾患
高齢になると認知症の人が多くなります。軽度なものを合わせれば80歳超えれば2人に1人は認知症とも言われます。
また認知症だけでなく、老年期うつ等の精神疾患に罹患する人も増えてきます。こういった認知症、精神疾患の症状によりハラスメント行為を行ってしまうようになることがあります。
③普段のケアの質が低い
ここまではハラスメントをする側の要因でしたが、ケアを提供する側が要因を作り出している事も考えないといけません。
普段のケアが不十分だったり、質が低い場合はそれを受ける側の利用者は大きなストレスを抱えます。そしてそのような質の低いケアが蔓延している場合は自分の辛い思いを聞いてほしくても聞いてもらえない事も多いでしょう。
その結果、ストレスが高まり、そのストレスが歪んだ形でアウトプットされるとハラスメントになってしまうという構図です。
この場合は、自分達が被害者意識にばかり偏るのではなく、きちんとしたケアが本当に行えているか振り返る必要があります。
ハラスメントに対してどうすればいいのか?
①職員が変な我慢はしない
ハラスメントが横行する職場環境を変えるには、まず自分達が声を挙げる事が必要です。そうしなければ何も変わりません。
「いやいや、職場の上司に訴えても相手にしてもらえないから。だからもう諦めてんの」
こんな声も聞こえてきそうですが、それでは何も変わりません。
実は職場にはハラスメントに対してきちんと改善していく義務というのがあります。
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。引用:労働施策総合推進法第30条の2
これは主に職場の従業員同士で行われるパワハラについて述べた内容ですが、これ以外にも全ての会社は従業員が安全で健康に働くことができるように配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。
つまり利用者などからのハラスメントで、従業員が安全かつ健康に働くことができなくなれば職員を雇っている事業所は場合によっては安全配慮義務違反ということで管理責任を追求される事が考えられるのです。
②職場全体でハラスメント対策に取り組む
職場でのハラスメント対策は、特定の個人レベルでは抜本的な対策や改善はほぼ不可能です。
その為には管理者やリーダークラスが先頭に立ち、組織レベルでハラスメントへの対策を考える必要があります。
具体的にはマニュアルや、ハラスメントは発生した時の対応のフローチャート作成をし、それを全ての職員に徹底的に周知させる。
またハラスメントが発生した時に感情的にならず、冷静に止めてほしい事を伝える。その時どのような事を言われたか、されたか、時間帯や場所等を記録しておく事も必要であり、それができるよう教育しておくことも大切になります。
③改善しない場合は労働基準監督署に相談
職場の上司に相談したがまともに取り合ってもらえず、改善の姿勢も見えない。或いはブラック事業所だからそもそも相談できない。
そのような場合は労働基準監督署に相談しましょう。労働基準監督署は誰の相談を受けたのかなどは、事業所に対して匿名にしたまま改善指導などを行う権限があります。
また仮に相談したことが特定されたとしても、その事を理由に無視や不利な配置転換等の嫌がらせをする事は違法です。そのような被害に合った場合も事実をきちんと記録し、証拠と共に労働基準監督署に相談しましょう。
まとめ
介護現場で主に行われているハラスメント
・セクハラ
・パワハラ
ハラスメントが起きる背景
・加齢による理性のコントロール能力の衰え
・認知症や精神疾患
・普段のケアの質が低い
ハラスメントへの対策
・職員が変な我慢はしない
・職場全体でハラスメント対策に取り組む
・改善しない場合は労働基準監督署に相談
今回はこれまで、ほぼ放置され続けてきた介護業界のハラスメント問題について改めて現状を整理し、これからどうしていくかについて考えてみました。
一つ確かなのは、どんな理由があれ職員がハラスメントを受け続けて良い理由などないという事です。
ハラスメントはどんな仕事でも起きる時は起きます。しかし発生した後の職員の心身のフォローであったり、ハラスメントを増長させないようにする対策には真摯に取り組んでいく必要があります。
まずは1人でも多くの人がこの問題に対して声を上げ、行動を起こす。そうやって業界全体の空気感を変えて行くことができればと思います。